【連載 ばぁばみちこコラム】第十三回 冬に流行する感染症―ロタウイルス感染症― 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 乳幼児の冬の急性下痢症の最も主要な原因はロタウイルスです。

 

ロタウイスとは?

 1973年に下痢がみられた子どもの便からウイルスが同定され、ウイルスの形が車輪に似ていることから、1974年にロタウイルス(ロタ=車輪)と名づけられました。ロタウイルスはA~H群までの8つに分かれていますが、人での感染は主にA、B、C群で、特にA群の感染が多く見られます。 
 ロタウイルス胃腸炎は、 1~4月の冬場に主に流行します。生後6ヶ月から2歳の乳幼児での感染が多く、5歳までにほとんどの子どもが感染します。感染を繰り返すと免疫ができるので、大人はかかっても発症しないか、極めて軽症ですみます。

 

 

 世界的にもロタウイルスは、発展途上国だけでなく、先進国での下痢の原因として最も多くみられ、約40%をロタウイルスが占めています。

感染経路

 ロタウイルスに感染した便1g中には10~100億個ものウイルスが排出されています。ロタウイルスは感染力が非常に強く、10個以下のウイルスでも感染が起こり、ウイルスに感染した便にふれた人の手を通して口から感染します。

 また、ウイルスは環境中で長い時間安定しており、人の手では数時間、乾燥したなめらかな物体の表面では数日間生存しています。乳幼児は周りのおもちゃなどを手で触って口に入れるなど、口からの感染が重要な感染経路となります。

 人では感染に伴い呼吸器症状がみられることもあり、また嘔吐した物がついた服や床は、普通に洗濯や清掃をしてもロタウイルスを除去することができないため、乾くと空気中に舞って感染を起こします。

 

症状=消化器症状(下痢、嘔吐)と経過

 ロタウイルスの潜伏期間は1~2日で、長くても72時間以内には発症します。

発症すると発熱に続いて突然の嘔吐や下痢の症状が現れます。嘔吐は1日数回以上にも及び、激しい下痢がみられますが、下痢は3~8日程度で治まります。発熱は1日程度で終わる場合が多く、2日以上になることはほとんどありません。激しい嘔吐や下痢によって急激に水分が失われるので、特に乳幼児では脱水症状に気をつける必要があります。便は下痢の回数が多いと、米のとぎ汁のように白く水様性で白色便性下痢と呼ばれています。冬の時期に起こりやすい事から冬季下痢症とも呼ばれることもあります。

 

 

 ロタウイルスは小腸の腸管上皮細胞に感染し、吸収に必要な絨毛の萎縮を起こし、腸での水の吸収ができなくなります。

 また、ウイルスの毒素や腸管の蠕動が亢進し、下痢や嘔吐を引き起こします。

 

 

 ロタウイルス感染に伴う神経症状は、2歳以下で約2%に、痙攣は数%に認められています。

 ロタウイルス感染症の重篤な合併症として脳炎・脳症があります。

 

 ロタウイルス脳炎・脳症は、けいれんが難治性で、後遺症が残る率が高いのが特徴で、予後不良です。

 患者の年齢は1歳、2歳児が多く、急性胃腸炎の好発年齢に一致して患者が多くなっています。

診断

 少量の便を検査キットに入れて検査をすることによって、便中のウイルスの有無を判定することができます。高い確率で簡単に検査ができ、15分程度で結果がでます。検査法のキットではA群ロタウイルスの検査なのでB、C群のロタウイルスの検査はできません。

 

治療と感染拡大の予防

 

 ロタウイルスに効果のある抗ウイルス剤はありません。また、下痢止め薬は病気の回復を遅らせます。脱水症を防ぎ、自然に治るのを待つしかありません。

 下痢だけで嘔吐がほとんどない場合には、市販のイオン飲料等で水分を少しずつ補給して様子を見ることができますが、嘔吐が頻回で口から水分を補給できない場合には早めに医療機関を受診することが必要です。

 また、症状がなくなった後も約1ヶ月は便の中にロタウイルスが潜伏している可能性があり、感染の拡大を防ぐためは、回復後も便などの扱いには注意が必要です。

 

 

 便などの処理には使い捨ての手袋を使用し、手洗いを充分に行い、殺菌には熱湯あるいは0.05から0.1%の次亜塩素酸ナトリウムを使用します。衣服は家庭用塩素系漂白剤でつけて消毒した後、他の衣類と分けて洗濯しましょう。

 ロタウイルスにはアルコールや逆性石鹸などの消毒薬はあまり効き目がありません。

また、調理器具、おもちゃ、衣類、タオル等は熱湯(85℃以上)で1分以上の加熱が有効です。

予防にはロタワクチンの投与を!!!=ロタウイルスはワクチンで予防が可能です

 

 ロタウイルスは感染力が非常に強く、感染を完全に予防することは困難で、予防にはワクチン接種が有効です。2011年から任意接種が開始されました。現在、認可されているA群ロタウイルスに対してのワクチンとして、ロタリックスとロタテックがあり、いずれも小児に対して安全で効果を認めています。

 

接種時期

 いずれのワクチン接種も対象者は乳児です。

 ロタリックスもロタテックも、生後6週から接種をはじめることができます。ロタウイルスワクチンは飲むタイプの生ワクチンで、接種後に4週間以上間隔をあけなければ次のワクチンを接種できません。

 0歳児は接種が必要なワクチンが多いので、生後2か月になったら、なるべく早い時期に、ヒブ、小児用肺炎球菌、B型肝炎ワクチンなど他のワクチンと同時接種で受けることがすすめられます。ロタリックスは生後24週までに2回、ロタテックは生後32週までに3回の接種を終えることが必要です。

 

接種後の注意点

 ワクチン接種後1週間程度はロタウイルスが便の中に排泄されます。可能性は低いのですが、これにより周りの人が胃腸炎を発症することがあります。ワクチン投与後の赤ちゃんの便を取り扱う際には手洗いを行うなどの注意が必要です。

 副反応として非常に低い確率ですが、腸重積症の発症が報告されています。腸重積症では、イチゴゼリー状の血液の混じった便となるので、赤ちゃんの便の状態にも注意をしましょう。

 

さいごに

 いつも元気で食欲旺盛な赤ちゃんが、嘔吐や下痢を繰り返すのは、見ていてとてもつらいですね。ロタウイルス胃腸炎は、産まれて初めての感染が最も重症です。予防とともに、お兄ちゃんやお姉ちゃんがいる家庭内では感染が広がらないように注意してくださいね。

 

ではまた。   By ばぁばみちこ