【連載 ばぁばみちこコラム】第十四回 冬に流行する感染症―RSウイルス感染症― 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 RSウイルスは冬に肺炎や細気管支炎を引きおこす主な原因ウイルスで、生後6か月以内の赤ちゃんでは重症化しやすく、しばしば入院が必要となります。

RSウイルスとは?

 RS ウイルスは呼吸器に強い感染力を持つウイルスです。RSウイルスという名前は呼吸器(Respiratory tract)に感染し、感染した細胞同士が融合して合胞体(Syncytium)という大きな細胞をつくることから名づけられました。
 1956年にMorrisらによって分離され、乳幼児に肺炎や細気管支炎などを引き起こす主な原因ウイルスとされています。年齢別では、1歳未満の乳児の呼吸器疾患の原因ウイルスとして、RSウイルスがトップを占めています。

 

RSウイルスの流行時期 異常であった2017年のRSウイルス流行状況!!!

 RSウイルスは、毎年、9月頃から流行が始まり、年末をピークに春先まで流行するのが一般的で、南や西日本から流行が始まり、東日本へと広がっていきます。年度によって流行状況に差があり、それぞれの地域での流行状況に注意をしておくことが大切です。

 2017年は、例年とは違う流行状況をしめし、7月に入って患者数が増え始め、以前のシーズンに比べかなり早いペースで増加し、9月に1万人を超え(前年の約5倍近くの患者数)、その後減少傾向になりました。また、地域別では沖縄に次いで北海道で流行が始まり、その後、東京、神奈川、大阪などで同時期に各地で流行が見られたのも特徴的でした。
 厚生労働省/国立感染症研究所によれば、本年度は昨年のような早い時期の流行はなく、今のところ例年通りの報告数となっており、そのうち1歳未満の報告が全体の約80%を占めています。

 

RSウイルスの伝搬様式と感染経路

 

 侵入経路は主に鼻の粘膜で、咳やくしゃみなどによる飛沫感染の他、感染者とのスキンシップ、おもちゃなどのウイルスのついた物を触ることによる接触感染でも感染します。カウンター上では約6時間の間ウイルスが生存していると言われています。

 乳幼児への感染経路は家族内での上のお子さんや保護者からの感染が主です。鼻水などの分泌物がついたティッシュペーパーなどはすぐにビニール袋に入れ、飛散しないように処理することが大切です。

 

症状=呼吸器症状、初めは風邪との区別が難しい

 RSウイルス患者のほとんどは乳幼児で、生後1歳までに50%、2歳までにほぼ100%の人が感染すると言われています。特に新生児や6か月以内の赤ちゃんは重症化しやすいので注意が必要です。特に、赤ちゃんが早産児であった場合や心臓に病気を持っているような場合には重症化しやすい危険性があります。
 早産児が重症化しやすい要因として肺が未発達であること、気道の狭窄が起こりやすいこと、免疫系が未発達であることの3つがあげられます。

 

 RSウイルスによる気道の感染症のために入院を要する子どもの大部分は、6か月以下の赤ちゃんです。少ないですが、死亡例もあります。
 大人や学童期の子どもは抗体を持っており、かかっても「鼻かぜ程度」で済んでしまいます。

 RSウイルス潜伏期は平均数日で、38~39℃の発熱、咳、鼻水など風邪のような症状が現れます。
 初感染の場合に症状が重くなることが多く、全体の2~3割は気管支炎や肺炎を引き起こします。

 

 高熱が続き、呼吸数が多く苦しそう、ゼロゼロという呼吸(喘鳴)などの強い呼吸器症状がある時は、RSウイルスが疑われます。症状は急速に悪化する可能性があり、入院が必要となることもありますので、「様子がいつもと違う、ミルクが飲めない、眠れない」などの症状がある時は早めの受診が必要です。

 

診断

 医療機関では「迅速検査キット」を用いてRSウイルスの判定が行われています。インフルエンザウイルスと同様に、綿棒で鼻の粘膜から分泌物を採取して検査を行います。所要時間は10~30分程度です。迅速検査は、1歳未満の乳児、入院中の児、パリビズマブ製剤の適用となる患者(後述)では、健康保険が適用されますが、それ以外で検査を希望する場合は全額自己負担となり、約3,000円程度かかります。

 

治療と感染拡大の予防

 

 RSウイルスには特効薬や予防のためのワクチンはなく、治療は風邪と同様、症状を和らげる対症療法しかありません。また生後6ヶ月以下の赤ちゃんの血液中にある母親からもらった抗体は、残念ながら感染を防ぐことはできません。
 RSウイルス感染症の潜伏期は5日程度(2~8日)です。症状が現れる前や症状が消えてからも、1~3週間はウイルスが排泄されており、周囲に感染を拡大させるおそれがあります。
 小さな赤ちゃんがいるご家庭では①手洗いやうがいの徹底、②マスクの着用など咳エチケットの徹底、③家具やおもちゃの除菌、④風邪のような症状がある時は近づかないなどの基本的な予防をしっかりすることが大切です。これらの対策は、RSウイルスだけでなく、インフルエンザなど他の呼吸器感染症の予防にも役立ちます。
 また、タバコの煙を吸うことは、RSウイルスによる気道の感染症の危険因子の一つと考えられていますのでこどもの受動喫煙を防ぐことも大切です。
 RSウイルスは消毒薬に弱く、消毒用アルコール、次亜塩素酸ナトリウム、ポピドンヨード(イソジン)など、大半の消毒剤が有効です。

 

パリビズマブ(商品名 シナジス)について:日本では2002年から投与が開始!!!

  パリビズマブは通常の予防接種で行うワクチンではありません。RSウイルスが体内で増殖するのを阻止する効果がある抗体成分を精製したものです。効果は約1か月ですので、流行期の9月頃から3月頃にかけて毎月投与する必要があります。また、他の予防接種との間隔を考慮する必要はなく、ほかのワクチンとの同時接種も可能です。

 

 

<パリビズマブの投与対象となる子どもと月齢>

 パリビズマブを投与できる子どもは、感染すると重症化のリスクが高い早産で産まれた子どもや、心臓に病気を持っているお子さんなどです。これらのお子さんでは保険適応でパリビズマブを接種することができます。

 

 

 

RSウイルス感染症にかかったら、保育園のお休みはどのくらい必要?

 

 子ども達が集団生活を送る保育園や学校では、感染症の流行を予防するために「学校保健安全法」という法律で出席停止の期間が決まっている感染症があります。感染症は第1種~第3種に分けられています。

 

第1種の感染症

 まれですがエボラ出血熱などの重大な感染症が第1種に定められており、これらの病気は感染症予防法により入院での治療が定められていて、治癒するまで出席停止と決められています。

 

第2種の感染症

 インフルエンザ、はしか、水ぼうそうなど、学校で感染が拡大する可能性が高い感染症で、病気によって出席停止日数が決められています。

 

第3種の感染症

 出席停止の期間については法律では定められていません。手足口病、溶連菌感染症などがこれに含まれ、医師が病状を見て出席できるかどうかを判断します。

 

 RSウイルス感染症は、第3種に含まれ休んだ方が良いとされる日数や症状の目安は主治医の判断にゆだねられています。法的な決まりはありませんが、それぞれの保育園が、RSウイルス感染症にかかった子どもには登園を控えてもらうという“措置”を取ることは可能です。
 ことに重症化しやすい0歳児を扱う保育所では、出席停止にする措置を取る保育園や登園を控えるよう(登園を再開する前には再度受診するよう)に指示をされることが多いのが現状のようです。

 

さいごに

 RSウイルス感染症は通常の風邪と違って、幼いお子さんでは重症化しやすいので、急な変化に注意をする必要があります。発熱、咳、鼻水などの呼吸器症状のみでなく、食欲や睡眠、顔色などに注意をしてあげてくださいね。それでは、良いお正月を。

ではまた。      By ばぁばみちこ