【連載 ばぁばみちこコラム】第十五回 冬に流行する感染症―ノロウイルス感染症―  広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒は、一年を通して発生していますが、特に冬に流行します。保育園や小学校などで集団感染が起こり、子どもが持って帰ったウイルスで家族内に感染が拡がってしまうことも珍しくありません。

ノロウイルスとは? 突然変異による新型ノロウイルスに注意!!

ノロウイルス

 ノロウイルスは、1968年にアメリカのオハイオ州ノーウォークの小学校で集団発生した胃腸炎の子どもから発見され、最初は「ノーウォークウイルス」と名づけられました。その後、ウイルスが小型で丸い形をしていたことから「小型球形ウイルス」と名付けられました。  2002年に国際ウイルス学会で「ノロウイルス」という名前に改められ、日本の食品衛生法でもノロウイルスとして広く知られるようになりました。
 2014年に突然変異を起こした新型ノロウイルスが川崎市で発見され、この新型ノロウイルスによる集団感染が各地で起こりました。今後も変異を起こした新型ノロウイルスが流行する可能性があります。過去にノロウイルスに感染していても免疫がなく、感染が拡大する可能性があります。

ノロウイルスの感染経路=ほとんどが経口感染、感染力は非常に強い

  1. ノロウイルスに汚染された人の手指を介して感染が起こります。感染している人の吐物や便中には多くのウイルスが含まれ、便1g中には数百万~数億個のウイルスが含まれています。
  2. 家庭や集団生活の場で人から人へ飛沫、空気感染することもあります。
  3. 汚染された牡蠣などの二枚貝を、生あるいは十分に加熱調理しないで食べた場合や、ノロウイルスに汚染された井戸水などを飲んだ場合にも感染がおこることがあります。

 我が国におけるノロウイルス月別の食中毒の発生状況をみると、11月くらいから発生件数、患者数は増加しはじめ、12月~翌年1月に発生のピークがみられます。

 食中毒の起こる場所は飲食店が最も多く、約7割を占めています。次いで旅館、弁当などの仕出屋で、外食を伴う場所ではノロウイルスの危険が潜んでいると言えます。

 厚生労働省のデータによれば、ノロウイルスによる食中毒の約7 割は原因となった食品が特定できていません。平成19年~29年に発生したノロウイルスによる食中毒3,716件のうち原因食品が特定できたのは879例(24%)で、ノロウイルスに汚染された二枚貝によるものが359件と最も多く報告されています。二枚貝はプランクトンを含んだ大量の海水を取り込み、出水管から排水していますが、取り込まれた海水中のウイルスが体内で濃縮されるためと考えられています。

ノロウイルス感染症の症状=消化器症状(下痢、嘔吐)と経過

 感染すると1~2日で発症します。ノロウイルスは、感染力の強いウイルスで、100個以下の少量のウイルスでも、小腸粘膜で増殖し、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などの症状を起こします。発熱は多くは軽度です。これらの症状が1~2日続いた後、治癒し後遺症もありません。また、感染しても発症しない場合や軽い風邪のような症状の場合もあります。健康な大人であれば通常、安静と水分補給によって数日以内に回復しますが、高齢者や幼い子どもでは、1日に20回以上の下痢を起こすなど消化器症状が激しく、強い脱水を起こし注意が必要です。
 また、症状がなくなっても、感染後1週間程度、長いときには1ヶ月程度ウイルスの排泄が続くことがあります。

ノロウイルス感染症の診断

 便中のノロウイルスを専用の迅速検査キットを用いて検査することができます。重症化しやすい3歳未満と65歳以上では健康保険が適用されます。結果は15分程度で判明します。ノロウイルスに感染していても潜伏期などでは陽性とならないこともあり、注意が必要です。

ノロウイルス感染症の治療

 

 ノロウイルスに効果のある抗ウイルス剤はなく、下痢止めの薬は病気の回復を遅らせます。脱水症を防ぎ、自然に治るのを待つしかありません
 高齢者や乳幼児などで、頻回の下痢を伴う場合には脱水症状を起こし体力を消耗しますので、ひどい場合には病院で点滴を行うなどの治療が必要になります。

ノロウイルス感染症の予防、拡大防止

 ノロウイルス感染症を予防するためには、食べ物を取り扱う人や食品、調理器具などからの二次汚染を防止することが大切です。
 家庭などでノロウイルス感染症が疑われる場合には、感染源となる便や吐物の取り扱いが最も重要です。ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、口に入って感染します。乾燥しないうちに便や吐物を速やかに処理し、室内を十分に喚気することが感染拡大を防ぐためには重要です。
ノロウイルスにはアルコールや逆性石鹸などの消毒薬はあまり効き目がなく、殺菌には熱湯か次亜塩素酸ナトリウムを使用しましょう。

ノロウイルス感染症の保健所への届け出

 ノロウイルス感染症は、感染症法で5類感染症に位置づけられています。保育園や学校、高齢者の施設等で一定の基準以上の感染が起こった場合には医療機関などから保健所への届け出の対象になります。また、食品衛生法では、食中毒が疑われる場合には、24時間以内に保健所への届け出が義務づけられています。

さいごに

 

 ノロウイルスは人の手によって運ばれます。外から帰った時やトイレの後、調理や食事の前には流水と石鹸でしっかり手洗いをする習慣を身につけましょう。

ではまた。  By ばぁばみちこ