【連載 ばぁばみちこコラム】第十六回 こどもの事故―やけど―  広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 やけどは、直後の強い痛みだけでなく、大きくなってからもケロイドなどの目に見える痕を残すことがあり、子どもにとってつらい事故のひとつです。特に赤ちゃんは皮膚が薄く柔らかいため、重症化しやすい傾向があります。


 高温の液体や火などの熱、化学物質や電気に触れることによって生じる皮膚の損傷を熱傷、通称「やけど」と呼んでいます。
 ハイハイ、つかまり立ち、一人歩きへと、子どもは1歳~2歳のうちに、動き回る範囲がどんどん広がります。それに伴って、家庭内でのやけどの危険性も増えていきます。

やけどの実態=やけどの大半は食事に関連しておこることが多い

 東京都消防庁の「やけど」の救急搬送データを見ると、年齢別では、人口1万人あたり、「0歳」で12.7人、「1歳」で18.0人と、「0歳」と「1歳」の救急搬送の数が多く、その後年齢が高くなるにつれて、搬送数は減っています。
 一方、初診時の重症度は年齢による一定の傾向はみられず、どの年齢でも生命の危険が強い重症以上が1%以上を占めています。
「やけど」の原因は「味噌汁・スープ」、「お茶・コーヒー」、「メン類」などの食事によるものが高い割合を占めており、食事の時の一瞬の油断で事故が起こっていますので、幼い子どもの食事には、十分な注意が必要です。

 

 

やけどの重症度=やけどの深さと広さで判定される

<やけどの深さ>

 やけどの深さは、どのくらいの温度のものが、どの程度の時間接触していたかで決まります。

 

 

 

 

<やけどの広さ=やけどの面積は成人では九の法則を、小児では五の法則を用いて概算>

 大人では身体のそれぞれの部位の面積が、体表面積の9%またはその倍の18%に相当するとして簡略化した九の法則でやけどの広さを概算します。子どもは大人に比べて頭頸部の表面積が大きいため、やけどの広さの概算には五の法則を用います。

 

 

右の表は、やけどの重症度の目安です。やけどの重症度に最も影響を与えるのは、やけどの深さと面積ですが、年齢、気道熱傷や軟部組織の損傷や骨折の有無なども影響します。
全身の10%以上のやけど、Ⅱ度以上のやけど、顔面、外陰部のやけどでは、救急受診が必要です。

 

やけどの応急処置のポイントは3つ!!!

 

1.出来るだけ速く流水で冷やす

やけどをしたら、水道のあるところへ直行。痛みが取れるまで最低でも5分できれば20~30分程度しっかりと冷やすことが大切です。冷やすことによってやけどの痛みをやわらげ、やけどが進行するのを止めることができ、やけどの跡が残りにくくなります。衣服の上からやけどをした場合は衣服の上から水をかけて冷やしましょう。無理に衣服を脱がすと、やけどした皮膚も一緒にはがれてしまう可能性があります。

 

2.水ぶくれは破らない

水ぶくれはⅡ度のやけどで、表皮の奥にある真皮にまでダメージが及んでいます。水ぶくれにはリンパ液などが含まれており、真皮層が損傷した上皮になろうと変化を起こしています。破ってしまうと上皮が損傷し、露出した真皮に感染症が起こる可能性があります。

 

3.「なにもしない」で病院へ

しっかり冷やした後は、痕を残さず治すためにも、清潔なサランラップ等で保護しながら一刻も早く病院で診断を受けることが必要です。サランラップはあくまでも、受診するまでの応急処置であり、受診後は医療用の創傷被覆材を用いた湿潤療法などが行われています。

低温やけどに注意!!!

 冬になると、使い捨てカイロや電気あんかなどによる「低温やけど」にも注意が必要です。低温やけどは、体温よりやや高いが、熱いと感じない程度の物に、皮膚の同じ部位が長時間触れて起こります。痛み等の自覚症状を伴わないことが多く、皮膚の表面はわずかなやけどに見えても、長時間にわたって熱の影響を受けているため、時間の経過とともに、皮膚の深い組織まで損傷が進行し、皮下組織が壊死することもあります。
 低温やけどの予防には、皮膚の同じ部位に長時間使用することを避ける必要があります。電気あんかは就寝時には体から離す、使い捨てカイロは使用方法や時間を守り直接肌に当てない、同じ部位に長時間使用しないなどの注意が必要です。

子どものやけどの予防

 

①やけどを引き起こす環境を見直しましょう
 熱いお茶やスープなど、熱を伴うものがあるところでは子どもがやけどする可能性があります。テーブルに熱いものを置くときには子どもの手に届かないように、また、テーブルクロスを引っ張って暑い飲み物をこぼす可能性がありますので、テーブルクロスは使用しないようにした方が安全です。ストーブなどでは子どもを遠ざけるための柵なども有用です。

 

②便利な調理家電も子どもには危険がいっぱい!!!
 消費者庁や国民生活センターが収集している医療機関からの事故情報によれば、2010年~2017年の7年間に、炊飯器や電気ケトルなどによる乳幼児のやけどは計289件、グリル付きこんろによる乳幼児のやけどは計36件が確認されています。合わせて年間約40件の事故が起きています。炊飯中に高温の蒸気に触れる、電気ケトルを倒して熱湯を浴びる、また、調理中のグリルに触れてやけどをする危険性があります。炊飯器などは手の届かない高さに置くとともに、小さい子どもを台所に入れない柵などの工夫が大切です。

さいごに

 幼い子どもがいるご家庭では子どもの手が届く範囲・高さに家電製品を置かないことがやけどを防止するための基本です。また、チャイルドロック機能のついた家電製品や蒸気が出にくい電気ケトルなど、安全に使用できる製品を選びましょう。

ではまた。  By ばぁばみちこ