【連載 ばぁばみちこコラム】第十七回 赤ちゃんに問題となるお母さんの感染症 ―風疹―
昨年夏頃から風疹の流行が懸念されています。妊娠初期にお母さんが風疹にかかると、赤ちゃんに重篤な障害が起こります。予防には風疹ワクチンの投与が唯一最も有効な手段です。
赤ちゃんに影響を及ぼす母体の感染症
赤ちゃんに影響を及ぼす母体の感染症は、①妊娠中に胎盤を通じておこる胎内感染、②産道に存在する病原体による産道感染、③母乳による感染の3つの感染経路があり、ウイルスや細菌など様々なものがあります。
母体感染症のうち、赤ちゃんに重篤な感染と障害を引き起こす病原体はTORCH症候群と呼ばれています。
TORCH症候群のうち、唯一、風疹のみがワクチン接種によって感染を予防することが可能で、産まれてくる赤ちゃんの障害をゼロにすることができます。
風疹とはどんな病気?
風疹は「三日ばしか」ともいわれ、飛沫感染で拡がります。
はしかに似た発疹が顔や首から始まり、全身に拡がりますが、発疹は3日程度で消えてしまいます。また、首や耳の後ろのリンパ節がはれるのが特徴です。感染しても20~30%は症状がでません。発疹がでる1週間前から発疹が出てから2週間程度は、感染の可能性があります。
風疹は幼児期から学童期に多く、あまり深刻な病気ではありませんが、妊婦が妊娠初期に風疹にかかると、赤ちゃんに重篤な後遺症を生じる「先天性風疹症候群」を引きおこします。
先天性風疹症候群 (CRS:congenital rubella syndrome)とは?
妊娠初期の母親の風疹に感染によって胎盤を通じて胎児に感染がおこります。発症には母親の風疹に対する抗体の有無と感染時期が関係しています。
先天性風疹症候群の赤ちゃんは低出生体重児で産まれることが多く、流産や死産もみられます。妊娠の初期ほど高率に児に異常が起こり、特に妊娠12週以内の感染の場合に危険性が高く、児の後遺症は25~90%におこると報告されています。
三大症状は白内障(妊娠2ヶ月まで) 先天性心疾患(妊娠3ヶ月まで) 難聴(妊娠5ヶ月まで)の3つです。妊娠20週を越えると先天性風疹症候群はほとんどみられなくなります。
日本での風疹の流行状況
2013年に東京や大阪の都市部で風疹が流行し、全国の風疹患者数は1万4000人を越えました。
東京都感染症情報センターからの報告によれば、東京都では2018年夏以降、風疹の再流行の兆しがあり、2018年は947人の患者が報告され、本年は2月10日までに132人の報告がされており、昨年に引き続き、風疹の流行が警戒されています(図1)。
2018年に東京都感染症情報センターから報告のあった947人の風疹患者は、20~40代の男性が多くを占めています(図2)。ワクチン接種歴は、接種歴が「不明」、または「なし」が90%以上を占め、この年齢の多くの男性が風疹に対する抗体を持っていないと思われます(図3)。
わが国の風疹に対する予防接種制度の移り変わり
風疹の予防接種は将来の妊娠に備え、昭和37年4月2日以降に出生した中学生の女子を対象に、昭和52年に集団接種として開始されました。集団で接種されたため、大半の女子はワクチン接種を受けましたが、昭和54年4月1日以前に出生した男子には接種は行われませんでした。
昭和54年4月2日以後に出生したこどもからは、ワクチン接種は集団接種から個別接種に変わり、対象は中学生の男女に拡大されました。
その後、昭和62年10月2日以降に生まれたこどもは幼児期に1回、平成2年4月2日からは、幼児期の風疹ワクチン接種加えて、中学生あるいは高校生で2回目のMR(麻疹風疹混合)ワクチンの個別接種になりました。
平成12年4月2日以降に生まれたこどもはMRワクチンを幼児期と小学校入学前に2回接種する制度に変わり、現在に至っています。
先天性風疹症候群を防ぐためには社会全体で風疹の流行を抑え込むことが重要
子どもが小さい頃に受けた予防接種は母体健康手帳に記載されていますが、ワクチン投与が集団接種から個別接種に変わり、家庭の事情などで医療機関を受診せず、未接種のままの可能性があります。また、幼い頃に風疹にかかったかどうかの記憶はあいまいなこともあります。
安心して妊娠するためには、お母さんだけではなく、母親への感染を予防するために、ご家族など周りの人も風疹の抗体を持っているかどうか、もう一度確認することが重要です。
風疹の流行を止めるためには子どもの時の1回の接種だけでは不十分で、すべての人が風疹のワクチンを一生で2回接種することが必要です。特に優先されるのは将来妊娠する可能性のある女性、夫や同居家族、ワクチンを受けた事が少ない年代の男性です。
<将来妊娠する可能性のある女性>
一般的な風疹の発症予防レベルのHI(赤血球凝集抑制)抗体価は16倍ですが、妊婦に求められる抗体価は先天性風疹症候群の発症予防を考慮して、32倍以上と高めに設定されています。
ワクチンの種類によって抗体価の上昇にばらつきがあり、1回の投与では十分な抗体が上昇しないことがありますので、1回目の接種後6 週以上あけて抗体価の測定を行い、32倍に満たない場合には2回目の投与が必要です。
風疹ワクチンは生ワクチンであり 妊娠の予定がある場合や、妊娠してからでは接種することはできず、また、接種後2か月間は避妊が必要となります。
<妊婦の夫や周りの家族>
先天性風疹症候群の予防のためには、夫や家族から妊婦への感染を防ぐ必要があります。
2018年現在、39歳以上の男性は風疹ワクチンを接種していなかった時代に産まれており、抗体を持っていない人が多いと考えられます。
風疹の流行を止め、感染の拡大を予防するためには、妊娠する可能性のある女性へのワクチン接種や周りの家族だけでなく、接種を受けていない年齢の男性への風疹ワクチン接種を同時に行っていく必要があります。
<ワクチンを受けた事が少ない年代の男性>
2018年夏ごろから首都圏を中心に増加した風疹の患者は、抗体がないまま成人した30~50代の男性が主な感染源となり、職場などから広まったと思われます。妊婦の周りにいる妊婦の夫や同居家族だけでなく、ワクチン接種を受けた事が少なく、抗体価の低い年代の男性への抗体検査とワクチン接種が、感染の拡大を防ぐカギをにぎっています。
厚生労働省は風疹の流行に歯止めをかけるための追加的対策として、2022年3月末までの3年間、ワクチン接種を受けた事がなく、感染のリスクが特に高いとされる39~56歳(昭和37年4月2日~昭和54年4月1日生まれ)の男性を対象に、免疫の有無を調べる抗体検査とワクチン接種を原則無料にすると発表し、本年度春から実施される予定になっています。
さいごに
日本産婦人科医会は2月4日を『風疹(ゼロ)の日』、2月を“風疹ゼロ”月間とし、風疹の撲滅を提言しています。先天性風疹症候群は一人ひとりのワクチン接種によって予防が可能です。
これから産まれる大切な命を守り、悲しい思いをするご家族がなくなることを願っています。
ではまた。 By ばぁばみちこ