【連載 ばぁばみちこコラム】第二十二回 赤ちゃんに問題となるお母さんの感染症 ―麻疹(はしか)―
麻疹ウイルスは非常に感染力が強く、手洗いやマスクをしただけでは予防ができません。予防にはワクチンの接種が唯一最も有効な手段です。
日本での麻疹の流行が懸念されています → 2019年も麻疹が感染拡大中!!
2018年3月に台湾からの旅行客が沖縄県で麻疹を発症し、沖縄県内の広い地域で二次感染した患者が報告されました。また、本年2月には、東海道新幹線に乗車していた40代女性が麻疹に感染していたことが報道されました。
国立感染症研究所の最新の集計では本年7月3日(26週)までに644人の麻疹患者が報告され、既に昨年1年間の患者数を大きく超えており、過去10年の中で最多のペースで感染が拡大しています(図1)。
本年7月3日(26週)までに報告された644人の麻疹患者の年齢別の割合では、30~39歳が29%と最も多く、次いで20~29歳が26%であり、成人での麻疹患者が約7割を占めています (図2)。
麻疹の症状と経過
麻疹の感染は空気・飛沫感染で起こります。感染力はきわめて強く、感染した90%以上の人が発症するとされています。潜伏期間は10日間前後で、その間に全身にウイルスが広がります。
<前駆期(カタル期)>
潜伏期間の後、38℃前後の発熱、咳や鼻水、結膜の充血や眼脂などの「カタル症状」があらわれ、2~4日間続きます。また、消化器症状として下痢、腹痛を伴うこともあります。
発疹がでる1~2 日前頃に臼歯の生えている口の中の頬の粘膜に赤みを伴った1mm 位の白色の小さなブツブツ(コプリック斑)が現れます。
<発疹期>
カタル期の発熱は一端下降しますが、半日くらいのうちに再び高熱(多くは39.5℃以上)が出る(二峰性発熱)とともに、発疹が耳後部、頚部の後ろや首から出現し、その後発疹は全身に広がります。
発疹期にはカタル症状は一層強くなります。発疹ははじめ鮮やかな紅色ですが、その後融合してくすんだ赤色となります。
<回復期>
発疹が出現した後3~4日間続いた発熱は回復期に入ると解熱し、カタル症状も次第に軽快します。発疹の色素沈着はしばらく残りますが、1ヶ月程度で薄くなります。
カタル期の発熱時から発疹が出て第5~6日間は患者の気道からはウイルスが排泄されており、この間は感染力をもっています。感染力が最も強いのは発疹出現前のカタル期です。
麻疹の合併症で最も多いのは肺炎と脳炎です。発疹後1週間たってもぐったりして発熱が続いていたり、咳が強いなどの症状があれば注意を要します。
妊婦の麻疹と胎児への影響
大人の麻疹は、子供より重症化しやすいのが特徴です。妊娠中は、抵抗力が弱くなるので、とくに合併症に注意が必要です。
風疹と違って、麻疹の場合は、妊娠中にかかっても、お腹の赤ちゃんに先天性の異常が現れることはほとんどありませんが、妊娠中に麻疹にかかると、「早産」や「流産」のリスクが高くなります。早産・流産は、はしかにかかった妊婦さんの約30%にみられ、そのうちの90%近くは、お母さんに発疹が現れてから、2週間以内に起こったと報告されています。
麻疹を予防するには、ワクチン接種が唯一最も有効な手段ですが、妊娠中は、ワクチンを接種することができません。また、予防接種をした場合、2カ月間の避妊が必要です。
妊娠を希望するお母さんは、妊娠前に抗体検査と麻疹ワクチンの接種を行うことが大切です。
麻疹の抗体検査と予防接種
幼い頃に自分が麻疹の予防接種を受けたかどうかは母子手帳を見れば分かりますが、様々な理由で接種したかどうかが分からない人もあります。また、麻疹の予防接種の制度も生まれた年によって義務化されていなかった年代もあり、予防接種を受けていない可能性もあります。
麻疹ワクチンは1回の接種で95%以上の人が免疫を獲得できるとされていますが、2回接種をすることで確実な免疫をつけることができます。
<わが国の麻疹に対する予防接種制度の移り変わり>
わが国の麻疹の予防接種は1996(昭和41)年から1回の任意接種として開始されましたが、任意接種であっために接種率は高くありませんでした。
1978(昭和53)年から予防接種法に基づいて市区町村が実施する予防接種に組み込まれ、定期接種に変わりましたが、1989(平成元)年から投与された麻疹・おたふく風邪・風疹の3種混合ワクチン(MMR)は、おたふくかぜワクチンによる無菌性髄膜炎の副作用により、1994(平成6)年以降、接種は努力義務へ変更されました。
2006(平成18)年からは麻疹・風疹混合ワクチン(MR)2回の定期接種となり、現在に至っています。
<麻疹の抗体検査>
自分が麻疹の予防接種を受けたかどうか分からない、または、予防接種を受けたが抗体が十分にあるかどうか不明な場合、麻疹の抗体検査を受けることができます。
抗体検査の方法には色々ありますが、国立感染症研究所のガイドラインで勧められているのは「EIA法(酵素抗体法)」と「PA法(ゼラチン粒子凝集法)」という方法です。
抗体が基準に満たない場合には、追加の予防接種を受ける必要があります。医療従事者など麻疹に接する機会が多い場合には、抗体の量がギリギリ陽性でも、予防接種を行う場合もあります。
抗体価を測る時間がない場合などは、抗体の量を調べずに予防接種を打っても大丈夫です。抗体が十分にある状態でも、追加の予防接種をすることには問題ありません。
さいごに
毎日の生活の中で、いつどこで麻疹の人と接するかわかりません。
幼い頃に麻疹ワクチンの接種を行っていない、麻疹の抗体価が低い場合には、将来麻疹を家庭に持ち込んでしまう可能性があります。特に妊娠中のお母さんでは赤ちゃんへの影響が心配されます。麻疹は予防できる病気です。辛い思いをする人がありませんように。
ではまた。 By ばぁばみちこ