【連載 ばぁばみちこコラム】第二十三回 赤ちゃんに問題となるお母さんの感染症 ―水痘(水ぼうそう)―
水痘は「水ぼうそう」とも言われ、9歳以下での発症が90%以上を占める子どもの病気です。
大人になって水痘に罹ると重症化することが多く、また、妊娠中のお母さんの感染は赤ちゃんに影響を及ぼすことがあります。
水痘とは?
水痘は「水痘帯状疱疹ウイルス」というウイルスによって引き起こされる病気で、水疱を伴う発疹が特徴です。水痘帯状疱疹ウイルスは初めて感染すると水痘を発症した後、他のヘルペスウイルスと同様に三叉神経節や脊髄の神経節に潜伏します。その後、再活性化によって、約10~30%の人が帯状疱疹を発症します。水痘ウイルスの伝染力は麻疹よりは弱いものの、おたふく風邪や風疹より強いとされ、家庭内などで濃厚接触した場合、発症率は 90%と報告されています。
水痘の症状と経過
水痘は飛沫や接触による直接感染によっておこります。潜伏期間は10~21 日(平均14日)程度です。気道の粘膜から侵入したウイルスは鼻咽頭の粘膜やその近くのリンパ節で増殖し、感染後4〜6日で一次ウイルス血症を起こします。その後、ウイルスは全身で増殖し、二次ウイルス血症となった後、皮膚に水疱を形成します。
大人では発疹があらわれる1〜2日前に発熱と全身倦怠感を伴うことがありますが、子どもでは通常発疹で初めて気づきます。発疹は顔や頭髪の生え際から始まり躯幹、四肢へ広がり、強いかゆみを伴います。
始めは3〜4mm程度の紅疹(皮膚の表面が赤くなること)ですが、数時間で赤みを伴った丘疹となり、その後水疱にかわり、3〜4日でかさぶたになります。数日にわたって新しい発疹が現れるので、急性期には紅疹、丘疹、水疱、かさぶたなど様々な発疹が混じって存在しています。
感染を起こす可能性があるのは発疹が出現する1日前から、すべての発疹がかさぶたになるまでの7日間程度です。
妊婦の水痘と胎児への影響
大人が水痘に罹ると子どもより重症化しやすく水痘肺炎などの合併症に注意が必要です。
また、妊娠中は合併症だけでなく、流早産の危険性とともに、胎児に感染様々な障害を引き起こすことがあります。
再活性化によっておこった帯状疱疹は赤ちゃんに感染することはほとんどありません。
妊娠中のお母さんが水痘に罹った場合、胎児へどのような影響が起こるかは、妊娠のどの時期に感染したかによって変わってきます。
<妊娠初期〜中期>
妊娠初期から中期の感染では胎盤を通じた胎児の感染によって「先天性水痘症候群」を発症することがあります。発症率は1〜2%とまれですが、妊娠8〜20週の妊婦さんは注意が必要です。症状としては、水痘による皮膚の傷あと、四肢の低形成、精神発達の遅れ、網膜絡膜炎などです。
<分娩前後~周産期> 分娩前後にお母さんが水痘に罹ると危険!!
分娩前後にお母さんが水痘を発症した場合、赤ちゃんが産道で、水痘ウイルスに感染し、出生後に「新生児水痘」を発症することがあります。赤ちゃんが水痘に罹るかどうかは、お母さんが感染してから分娩までの期間が関連します。
(1)お母さんが感染してからウイルス血症がピークとなるまでの期間の分娩
ウイルス量は少ないため、赤ちゃんへの感染の危険性はほとんどなく、お母さんが治るまで赤ちゃんとの接触を避けることで赤ちゃんへの感染を防ぐことができます。
(2)お母さんのウイルス血症がピークで、抗水痘抗体が十分でない期間の分娩
発症2日前から発症5日以内の分娩では、ウイルス量が多く、また、お母さんからの抗体が十分に赤ちゃんに移行していないため、新生児水痘の発症率が最も高くなります。
感染した赤ちゃんの30〜40%は生後5〜10日に新生児水痘を発症し、肺炎や脳炎などの合併症を認めることがあり、死亡率は30%に及びます。
(3)母体発症後5日以上経過しての分娩
お母さんからの抗水痘抗体が赤ちゃんに移行しており、赤ちゃんが水痘を発症しても重症となることは少なく、注意して経過観察を行います。
出産予定日近くにお母さんが水痘を発症した場合、赤ちゃんに十分な抗体が移行するのを待つために、子宮収縮抑制剤を投与して出産を5日以上遅らせることがあります。
妊娠中にお母さんが水痘に感染した場合には?
妊娠中の水痘
お母さんが妊娠中にはじめて水痘に罹ると重症化するため、水痘患者と濃厚接触があった場合(家庭内で、上のお子さんが水痘に罹った場合など)には予防的にガンマグロブリンの投与を行うことがあります。また、お母さんが水痘を発症した場合には「アシクロビル」などの抗ウイルス薬を投与します。
周産期水痘
分娩前後の周産期にお母さんが水痘を発症し、水痘を発症する危険性がある場合は、出生後早期に赤ちゃんの治療が必要になります。分娩前5日から分娩が終わって2日以内に、お母さんが水痘を発症した場合には、母子ともに重症化の可能性があり、母体には「アシクロビル」、生まれてきた赤ちゃんには「免疫グロブリン」や「アシクロビル」の投与を行います。
水痘感染の予防:水痘ワクチンの接種が最も有効!!!
水痘が流行している時期には、妊娠中はできるだけ外出を避け、水痘患者に近づかないことが大切ですが、実際には、発疹が出ていない時期には水痘かどうか分かりません。
子どもの頃に水痘に罹ったかどうか不明な場合には、抗体検査を受け、抗体がなければ妊娠する前にワクチン接種を受けることで予防ができます。水痘ワクチンは生ワクチンのため、妊娠中の接種はできません。また、ワクチン接種前の約1ヶ月間と、接種後の約2ヶ月間は避妊が必要です。
子どもの水痘ワクチン
水痘の定期接種は、生後12カ月から生後36カ月までの子ども(1歳の誕生日の前日から3歳の誕生日の前日まで)を対象として、2014年10月1日から開始されました。
定期接種は、2回の接種を行うこととなっており、1回目の接種は標準的には生後12カ月から生後15カ月までの間に行います。2回目の接種は、1回目の接種から3カ月以上経過してから行いますが、標準的には1回目接種後6カ月から12カ月で行います。
厚生労働省は様々な感染症の動向を把握するために、全国約3,000か所の小児科の定点医療機関から、毎週患者数の届け出を義務づけています。
国立感染症研究所からの水痘の患者数についての報告によれば、2012年に日本小児科学会が、水痘ワクチンの2回接種をすすめた後、報告数の減少が見られ始めていました。その後、定期接種が始まった直後の2015年以降、患者数はさらに大きく減少し、ワクチン接種の予防効果が著明であることがわかります。
さいごに
水痘の発疹は痒みが強く、子どもは眠りが妨げられたり、口の中の発疹のために食欲が低下したりします。また、かさぶたを引っ掻いて傷あとが残ることもあります。1歳を過ぎたら、水痘の予防接種も忘れないで下さいね。
また、分娩前後にお母さんが水痘に罹ると母子ともに重症化します。幼い頃に水痘に罹ったかどうか確認してください。辛い思いをする人がありませんように。
ではまた。 By ばぁばみちこ