重症心身障碍児・者の医療と福祉に携わって 社会福祉法人 広島県リハビリテーション協会 重症心身障碍児・者医療福祉センター「ときわ呉」 施設長 岡崎 富男

 

 重症心身障碍児・者は「医療的ケア」を必要とすることが多く、気管切開・胃瘻造設をしている人も多い。頻回の吸痰や人工呼吸器の装着が必要がある人もあり、これらの「医療的ケア」は一生涯必要であることもある。この様な処置は本人にとってはストレスになるものであり、如何に処置の回数を減らせるか、その侵襲を少なくするかが課題である。胃瘻を使っての経腸栄養も只、漫然と行うのではなく、口から食べる食事と同じで、形、臭いや味を十分に感じながら注入するという観点が重要である。味覚は口だけではなく、腸管にもあると考えられている。

 

 医療的ケアが要る人も「生命を彩るもの」が必要である。更には「生きていくための希望」「日々の楽しみ」「人としての尊厳」「人とつながっている安心感」が必要である。これらを実現するには医療職は勿論のこと家庭・教育・福祉などの各分野の連携が重要であり、その調整役を担うのは「医療的ケア児等コーディネーター」である。その養成は緒に就いたばかりであるが、今後、それぞれの自治体に置かれる筈である。

 

 今までは18歳未満の小児と成人は別個に取り扱われていたが、法律の改正により、小児と成人を一貫して同一の施設で継続して収容することが可能になった。この事は障害者にとっては大変望ましい療育環境が保持できると考えられる。

 

 障碍者施設の入所者は次第に高齢化しており、以前からある施設ほど保護者も含めて高齢化の波に吞まれている。それに伴い加齢による疾患が増加しており、肺炎・閉塞性肺疾患をはじめとした呼吸器疾患は勿論であるが、消化器疾患である腸閉塞や大腸がん・胃がん、泌尿器疾患である尿路結石・尿路感染症・腎不全、骨粗鬆症による骨折などの発症が増加し、身体の動きは益々制限されている。 

 

 また、重症心身障碍児・者の中にはてんかんを合併している方が多く、しかも難治である例が多い。種々の抗けいれん剤を複数服用しており、四種類以上服用されている場合もよくみられる。その上、フェノバール®・アレビアチン®・テグレトール®などの酵素誘導性の薬剤やデパケン®などの従来使用されていた抗けいれん剤は副作用が多く、他の薬剤との相互作用がある。

 

 最近使用される様になった新しい抗けいれん剤である、イーケプラ®・ラミクタール®・フィコンパ®・ビムパット®などは比較的に副作用は少なく、免疫力の低下や骨粗鬆症への影響も少ない。その様な観点から私は出来れば一生涯飲み続けなければならない抗けいれん剤は、より副作用の少ない新薬に変えるようにしている。

 

 日常生活における種々の療育支援、音楽療法その他の作業療法もある程度の効果は得られている。

 また、リハビリテーションにより運動機能の増進や維持に努めているが、飛躍的な改善につながり難い。最近、諸外国で自己骨髄の移植療法により著しい運動機能や社会活動機能が回復する例が多く報告され、本邦でも生下時に保存していた臍帯血を生後に脳性麻痺発症が疑われた時点で本人に輸血することで運動機能・知的能力が明らかに回復している例が報告されている。私はこれからの残された人生をこの様な治療法が我が国で行うことが出来るように頑張ってみたいと考えている。