障害者アートは国境を越える
社会福祉法人旭川荘 理事長 末光 茂先生にご寄稿いただきました。
末光先生とは一昨年の重症心身障害児者を守る会の全国大会の際にご縁をいただき、その後ときわ呉の岡崎先生のご案内で旭川荘を視察させていただきご縁を深めさせていただきました。
昨年は日本重症心身障害学会学術大会にお誘いいただき参加させていた際にご寄稿のお願いをし快くお受けくださいました。
重症児者に長年に渡り寄り添ってくださた江草先生、そして現在もご尽力くださっている末光先生に感謝すると共に、お二人の先生の思いがたくさんの方に伝わる事を願っています。
※アール・ブリュットについてはホームページで2019 年2月 専門家コラム掲載の記事 《渡邉芳樹様(元・駐スウェーデン日本国特命全権大使、糸賀一雄記念財団理事、 愛成会アール・ブリュット担当顧問)ご寄稿》も合わせてお読みください。
障害者アートは国境を越える
社会福祉法人旭川荘 理事長 末光 茂
この数年、障害者のアートに関わることが増えています。
きっかけは、5年前に急逝された江草安彦旭川荘前名誉理事長の言葉にあります。「自分にあと5年の命を与えられたら、3つのことをやり遂げたい」と申されていた、その一つが、障害者の芸術・文化・スポーツの振興でした。
私は長年、芸術、特に絵画とは一線を画してきました。中学2年生の苦い体験に発しています。愛媛県の秋の県展に、夏休みの宿題で、我が家の庭を描いた油絵を、A先生に勧められ、出展しました。
結果は入選に至りませんでした。別のB先生が、返ってきたその絵をクラス全員の前で、「なぜこんな絵を県展に出したのか」に始まり、私が苦心をし、A先生が褒めてくれた木の葉の描き方を、繰り返し「だめだ」と酷評されたのです。
同じ絵の同じ箇所をA先生は高評価し、B先生は酷評。正反対です。子ども心に受け入れがたく、絵の先生の評価が信用できなくなりました。
それから、実に60年余り、絵画とは縁遠い生活を続けてきました。しかし、江草先生の悲願だけに、取り組むことにしました。
最初に出掛けたのが、3年前のフランス・ナント市での日仏合同の「こもれび展」。翌年は、スイスのローザンヌ市のアール・ブリュット美術館での「ジャポネ展」です。自由で奔放な絵に魅了されました。
昨年は、岡山と中国上海市との障害者絵画交流展を主催し、メキシコ・メリダ市での世界10数か国のダウン症の「Deep Down Arts」に、旭川荘の作品も展示いただく機会を得ました。
児童精神科医として、かつて診療した他害と攻撃性の強かった知的障害の青年の絵にも最近接しました。絵から伝わってくる内面の豊かさ、温かさに驚嘆するとともに、30年前に何を治そうとしたのか、今になって反省しきりです。
アートやスポーツを通じて、障害のある人のタレントを一人でも多くの人に、正しく理解していただく。その輪が国境を越えて広がり、互いに尊重し合える場づくりに力を注がねばと考えています。