【連載 ばぁばみちこコラム】第三十一 回 赤ちゃんに問題となる 妊娠合併症-妊娠糖尿病ー
妊娠中、お母さんの血糖値は高い傾向にあります。妊娠中にお母さんの高血糖が続くと、お母さんだけでなく、赤ちゃんに様々な合併症をおこすことがありますので、妊娠中は血糖値が上がり過ぎないように十分に気をつけることが必要です。
私達の体内で血糖値はどのように調節されているのでしょうか?
食物に含まれるグルコース (ブドウ糖)は小腸で吸収され、血液中を循環しています。血糖値は血液中のグルコースの濃度を示すもので、食後は高い値を示しますが、空腹時の血糖値はおおよそ80~100 mg/dL程度に保たれています。血糖値は膵臓からのホルモンと脳の視床下部からの交換・副交感神経系によって一定に調節されています。
血糖値が高くなると?
血糖値が高くなると「すい臓のランゲルハンス島のβ細胞」から「インスリン」というホルモンが分泌されます。インスリンは全身の細胞でのグルコースの吸収、肝臓でのグルコースからグリコーゲンへの合成と貯蔵、脂肪細胞でのグルコースから脂肪への合成と蓄積を促すことによって、血糖値を下げる作用があります。また、血糖値の上昇は、「視床下部」でも感知され、副交感神経の刺激により、すい臓でのインスリン分泌が促進されます。
血糖値が低くなると?
血糖値が低くなると、「すい臓のランゲルハンス島のA細胞」から分泌される「グルカゴン」というホルモンが分泌されます。このホルモンは肝臓に貯蔵されているグリコーゲンをグルコースに分解し、血糖値を上昇させます。血糖値の低下は、視床下部でも感知され、交感神経が刺激されることによって、すい臓でのグルカゴンの分泌が促進されます。
また、視床下部からの交感神経の刺激は、グルカゴンと同様の作用をもつ「アドレナリン」いうホルモンを副腎髄質から分泌させ、肝臓に蓄えられたグリコーゲンを分解し血糖値を上昇させます。
さらに、視床下部からの刺激を受け、脳下垂体前葉から分泌される副腎皮質刺激ホルモンは、副腎皮質から「糖質コルチコイド」というホルモンが分泌させます。糖質コルチコイドは全身の筋肉のタンパク質からグルコースを産生し血糖値を上昇させます。
なぜ、妊娠中するとお母さんの血糖値が上昇しやすいのか?=「インスリン抵抗性」
妊娠中のお母さんでは、インスリンの作用を妨げる「インスリン抵抗性」という状態がみられます。インスリン抵抗性は妊娠中期以降に強くなり、妊娠後期では、血糖値を正常に保つために、お母さんの体ではさらに多く(妊娠前の約2倍)のインスリンが必要となります。
妊娠中には、妊娠を継続して、赤ちゃんの発育をうながすホルモンが胎盤から分泌されます。
胎盤から分泌されるホルモンのうち、hPL(ヒト胎盤ラクトゲン)は、インスリンの作用を妨げるインスリン抵抗性を持つホルモンで、妊娠末期に向け急激に増加します。
お母さんの血糖値が上昇すると、お母さんの膵臓から多量にインスリンが分泌され、糖質のみでなく、脂質や蛋白質の合成も促進され、胎児の発育が促されます。妊娠末期にインスリン抵抗性が強くなり、血糖値が高くなることは、赤ちゃんがお腹の中で育つのにはとても有利で、理にかなっていることなのです。
ところが、インスリン抵抗性があまりにも強くなり過ぎると、インスリンの必要量に母体のインスリン分泌量が追いつかず、バランスが崩れ、お母さんと赤ちゃん両方に対して悪影響を及ぼすことになってしまいます。
妊娠中に注意が必要な糖代謝異常とは?
妊娠中の検診で血糖値が一定の基準を超え、注意すべき糖代謝異常は、3種類に分けられます。
- 妊娠糖尿病;妊娠の影響でおこる糖代謝異常
- 糖尿病合併妊娠;妊娠前に診断されていた糖尿病
- 妊娠中に診断された糖尿病;妊娠前に診断が過ごされていた糖尿病
このうち、糖代謝異常の原因としでは妊娠糖尿病が最も多く、妊婦の約10%程度を占めます。妊娠糖尿病になりやすい人は以下に示すいくつかのリスク因子がありますので注意が必要です。
妊娠中の糖代謝異常がお母さんや赤ちゃんに及ぼす影響
お母さんへの影響は?
お母さんは、妊娠糖尿病になっても自覚症状はほとんどありませんが、高血糖が続くと、流産や早産、羊水過多症などのリスクが上がります。
また、妊娠中はインスリン抵抗性が増すことにより糖尿病性ケトアシドーシスという状態になることがあります。インスリンによるグルコースからのエネルギー代謝に問題が生ずると、肝臓での脂肪酸を分解したエネルギー代謝が行われ、その過程でケトン体が生成され体に蓄積します。その結果、血液が酸性(アシドーシス)となり、昏睡に陥ることがあります。
切迫早産の治療に使われる子宮収縮抑制剤である塩酸リトドリンは急激な高血糖を引き起こすことがあり、ケトアシドーシスを誘発しやすいので注意が必要です。
赤ちゃんへの影響は?
日本糖尿病・妊娠学会の調査では、一般の妊婦さんでの赤ちゃんの奇形の頻度は1.9%ですが、妊娠前に糖尿病が診断されておらず、妊娠後に糖尿病が分かって、治療を開始した場合の頻度は9.0%と約4倍にもなります。
血糖値が高い状態が続くと、赤ちゃんの膵臓から過剰のインスリンが分泌され、赤ちゃんが大きくなりすぎて、難産になったり、赤ちゃんが低血糖をおこすこともあります。
また、糖化ヘモグロビンが増えることによって、赤血球数が増加(多血症)したり、黄疸が強くなったり(高ビリルビン血症)することもあります。
妊娠中の糖代謝異常の診断
妊娠糖尿病は自覚症状がないにも関わらず、赤ちゃんとお母さんに様々な悪影響を与えるため、妊娠中の血糖値の管理は重要です。日本産科婦人科学会では、すべての妊婦さんを対象に、妊娠初期と中期(妊娠24~28週)にスクリーニング検査を行うことを勧めています。
「随時血糖」や「50gブドウ糖負荷試験」という検査などによって血糖値を調べるのが一般的です。検査の結果、血糖値が高くて妊娠糖尿病などが疑われる場合は、「75gブドウ糖負荷試験」と呼ばれる再検査を行い、診断が行われます。
妊娠糖尿病を含め、リスクと考えられる糖代謝異常には以下のものがあげられます。ただし、基準の血糖値をはるかに上回る数値が出たときは、「明らかな糖尿病」と診断され、妊娠に関係なく糖尿病を発症したと判断されます。
妊娠中の血糖の目標値
妊娠糖尿病と診断されたら、妊娠中の血糖値を健康な妊婦さんに近い値にコントロールすることが大切です。
目標血糖値としては、早朝空腹時血糖値90~100 mg/dL未満、食後1時間血糖値140mg/dL未満、もしくは120mg/dL未満とされています。
その他、過去約1~2ヶ月間という長期間の血糖値の指標であるHbA1 c値(糖化ヘモグロビン)や過去2週間前後の血糖値の指標であるGA値(グリコアルブミン)も参考にされます。
糖代謝異常妊婦妊娠中の管理
食事と運動
血糖のコントロールのためには、食事療法がまず行われます。妊娠中には赤ちゃんの発育も含めた適正なエネルギー量が必要で、栄養バランスの良い食事を規則正しくとり、適正な体重増加を目指すことが必要です。
体内で糖分になるお米や麺類、パンといった炭水化物、砂糖をたくさん使ったお菓子や清涼飲料水などはひかえめにし、食物繊維の多い野菜を積極的に食べるようにしましょう。
運動をして汗を流すのも血糖値コントロールには大切です。妊娠経過に問題がなければ30分程度のウォーキングなど、妊娠中でもできる軽めの運動が勧められます。
インスリン治療
食事や運動療法によっても血糖値が改善されない場合は、インスリンを皮下注射で投与する「インスリン療法」が必要となります。
さいごに
もし妊娠糖尿病と診断を受けたら、医師の指示のもと食事療法に取り組みましょう。病院などでは、栄養相談室などで教えてもらえます。できるだけ早く血糖値を改善することが、ママと赤ちゃんの命を守ることにつながります。
また、妊娠糖尿病のお母さんの多くは、お産の後には血糖が正常化します。しかし、妊娠糖尿病と診断されたお母さんの約半数が20年~30年後に糖尿病と診断されたという報告もありますので、お産の後も定期的なフォローアップを受けましょう。
追伸;コロナウイルスが流行しています。妊娠中のお母さんは、さらにたくさんの心配をされていることと思います。一日も早くコロナウイルスの流行が終息に向かうことを願っています。
辛い思いをする人がありませんように。
ではまた。 Byばぁばみちこ