【連載 ばぁばみちこコラム】第三十四回 赤ちゃんに問題となる妊娠合併症―全身性エリテマトーデス―
膠原病の一つである全身性エリテマトーデスは、お母さんの自己抗体が胎盤を通過して胎児に移行し、赤ちゃんに影響をおよぼすことがあります。
膠原病とは?
「膠原病」は皮膚や関節、血管などに変化を起こす病気の総称で、病名ではありません。体の「結合組織」に「フィブリノイド変性」という同じ変化が見られることから、1942年にKlempererという病理学者によって、「膠原病」という名前がつけられました。
膠原病の原因は、現在もはっきり分かっていない部分もありますが、研究が進むにつれて少しずつ原因が明らかになってきました。
現在、免疫システムの異常が、最も有力な原因とされており、血液中に自分の身体の組織を攻撃する「自己抗体」が出現し、それによって病気が起こるとされています。
免疫システムは、本来、身体を病原体などから守る働きがありますが、自分の体の免疫の異常による自己抗体が原因で病気がおこることから、「全身性自己免疫性疾患」とも呼ばれています。
膠原病には関節リウマチや全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、皮膚筋炎などさまざまな病気が含まれています。
全身性エリテマトーデス(SLE)とは?
全身性エリテマトーデスは英語で “Systemic Lupus Erythematosus”の頭文字を取ってSLEと略されています。systemicとは、全身のという意味で、この病気が全身の臓器に症状を引き起こすことを指しています。また、皮膚に出来る発疹が、狼に噛まれた痕のような赤い紅斑(lupusはラテン語で狼を意味しています)に似ていることから、lupus erythematosusと名づけられました。
全身性エリテマトーデの症状
初期には発熱や 全身倦怠感、食欲不振 などの不定の症状で始まり、次第に関節、皮膚、そして腎臓、肺、中枢神経などの内臓にさまざまな症状が起こってきます。
皮膚や関節症状はほとんどの患者さんに見られ、これにさまざまな内臓や血管の病気が加わりますが、病気の程度は個人個人によって違います。
皮膚症状のうち、もっとも典型的なのは、頬に出来る少し盛り上がった赤い発疹で、蝶が羽を広げている形に似ていることから、蝶型紅斑と呼ばれています。
関節症状としては関節に炎症がみられます。肘、膝などの大きな関節や手の指などが腫れて痛みます。日によって痛む場所が変わることもあります。
強い紫外線にあたった後に、皮膚に赤い発疹、水膨れ、あるいは熱が出るなどの日光過敏症は、この病気でよく見られます。この症状が、病気の始まりであることも少なくありません。また、口内炎や脱毛が目立つことがあります。
臓器障害としては様々なものが知られていますが、症状や障害される部位は一人一人違い、全く臓器障害のない軽症の人もいます。
特に腎臓、神経精神症状、心臓、肺、消化器、血液などに異常がみられる場合には、命に関わる重要な障害に進行することがありますので注意が必要です。
日本での患者さんはどのくらいいるのでしょうか?
全身性エリテマトーデスは国の難病に指定されています。特定疾患医療受給者証は6万人程度の人が持っていますが、申請をしていない方や医療機関に受診していない方などを含めると、この2倍位の人がこの病気をもっていると推定されおり、現在日本全国には約6~10万人の患者さんがいると考えられています。
男女比は1:9で、圧倒的に女性に多く、すべての年齢に発症しますが、子どもを産む年齢、特に20-40歳の女性に多いとされています。
全身性エリテマトーデスの診断
診断の中心となるのは血液検査で、自己抗体の有無などの検査を行います。自己の細胞にある細胞核を抗原とする自己抗体である抗核抗体が上昇し、免疫を担う「補体」というタンパク質が炎症のために使われて低下します。抗カルジオリピン抗体というタンパク質などが上昇し、血栓を作りやすくなります。また、梅毒に罹ってないのに検査で陽性反応が出ることもあります。
全身性エリテマトーデスは、症状が全身にわたるため、診断後は、全身の検査が必要になります。検尿検査、胸部レントゲン、CT検査、頭部CT、MRI検査などが行われます。特に腎炎は進行性のため、腎炎を合併しているかどうかは、その後の治療方針に大きく影響を及ぼします。
全身性エリテマトーデスの治療
①副腎皮質ステロイド
炎症と免疫を強力に抑える副腎皮質ステロイドが第一選択薬として用いられます。重症度によって投与される薬の量が決められ、重症度のかなり高い患者さんでは、副腎皮質ステロイドを点滴で大量に使用する方法(ステロイドパルス療法)が選択される場合があります。
②免疫抑制薬
副腎皮質ステロイドの効果が不十分か、副作用が強い場合に、免疫抑制薬を使うことがあります。
③抗凝固療法
抗カルジオリピン抗体などが陽性で、血栓を作りやすい抗リン脂質抗体症候群を合併している場合には、ワーファリンなどによって、血栓の予防が行われます。
妊娠によるお母さんの全身性エリテマトーデスへの影響
お母さんが全身性エリテマトーデスである場合、治療により6か月以上病気が安定した状態で妊娠することが望ましいとされています。
治療によって、寛解している場合や早期に診断された軽症の場合は、妊娠によって必ずしも増悪はしませんが、病気が落ち着かない状態で妊娠した場合、流産や早産になりやすく、お母さんの症状が悪化しやすいことが知られています。また、妊娠中に増加したステロイドホルモンが分娩後には急激に減少するため、お産が終わった後に悪化する可能性が高いため注意が必要です。
全身性エリテマトーデスが妊娠と赤ちゃんへ与える影響
全身性エリテマトーデスに罹っている女性が妊娠した場合、お母さんの自己抗体が胎盤を通過して胎児に移行し、妊娠経過や赤ちゃんに影響をおよぼす事があります。これには、抗リン脂質抗体症候群と新生児ループス症候群の2つの病態が知られています。
全身性エリテマトーデスの患者ではループス・アンチコアグラントやカルジオリピン抗体をはじめとする抗リン脂質抗体陽性の頻度が高く、子宮・胎盤循環に血栓を形成し自然流産や死産、早産、胎児の発育の遅れが見られます。
また、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体の移行によって、新生児ループス症候群を発症することがあります。心伝導路障害のうち完全房室ブロック(心臓を動かす心房からの刺激が心室に伝わらず、十分な血液が心臓から出ていかない状態)は不可逆的で、生まれて早期にペースメーカーの適応となることも多く、心不全から胎児水腫(胎児の全身がむくむ状態)や子宮内胎児死亡の原因にもなりうるので注意が必要です。
妊娠中のお母さんと胎児の評価
新生児ループス症候群は全身性エリテマトーデスのお母さんから生まれた赤ちゃんの1~2%に発症します。胎児に発育不全や不整脈、徐脈、肝脾腫などが認められた場合には、早期娩出や胎児治療が行われることがあり、慎重な評価が必要となります。
胎児治療
胎児の心伝導路障害のうち、1,2度の房室ブロックは、お母さんにステロイド投与することによって改善することもあります。完全ブロックは改善することはないので、心拍数が55/分未満になり、心拍出量が維持できない場合には、脈拍数を増加させるβ刺激薬の投与をお母さんに試みることもあります。
生まれた赤ちゃんの検査・治療
生まれた赤ちゃんに新生児ループス症候群が疑われた場合には、新生児集中治療室でのモニタリングを行うとともに、血液検査、心超音波検査、心電図などの検査が必要です。
抗SS-A抗体、抗SS-B抗体が陰性の場合は心伝導路障害の発症はまれです。完全房室ブロックは胎内死亡を含め、生後3か月以内の死亡の危険性は20~30%で、自然治癒はないので、早期のペースメーカーの植え込みの適応が必要になります。
さいごに
全身性エリテマトーデスのお母さんの妊娠にはリスクが伴いますが、母子ともに正常な出産をする人は少なくありません。
治療により6か月以上病気が安定した状態で妊娠することが望まれます。また、抗リン脂質抗体が陽性の場合には、妊娠高血圧症候群などの妊娠合併症のリスクがありますし、抗SS-A抗体が陽性の場合、新生児ループス症候群を発症の可能性がありますので、高次医療機関でのお産の方が安全です。
毎日、暑い夏が続いています。コロナウイルスの流行で不安な夏となりそうです。ご両親と赤ちゃんが健やかでありますように。
ではまた。 Byばぁばみちこ