【連載ばぁばみちこコラム】第三十七回 赤ちゃんに問題となる妊娠合併症 ー切迫早産ー
切迫早産は規則的な子宮収縮が頻回に起こり、子宮の出口が開いて赤ちゃんが生まれてきそうな早産一歩手前の状態です。早産を予防するためには、切迫早産の徴候を早い段階で見つけ、治療を開始することが鍵になります。
早産とは?
大半の赤ちゃんが生まれる妊娠37週0日から妊娠41週6日までの出産を正期産、妊娠42週以降の出産を過期産と呼んでいます。「早産」は正期産より早い時期に赤ちゃんが産まれることで、妊娠22週0日から妊娠36週6日までの出産を早産と呼んでいます。
わが国の早産数の年次推移と早産率は?
1989年から2018年の30年間の早産率は4.4%から5.6%と増加傾向にあります。同じ時期に生まれた赤ちゃんの数は1,246,802人から918,400人へ減少しているため、早産で産まれた赤ちゃんの数自体は54,574人から51,732人と増加は見られていません。
わが国での早産率が増加している主な理由
わが国で早産率が増加している主な理由として、以下の4つが主な原因されていますが、このうち絨毛膜羊膜炎が最も多い原因と考えられています。
- 年齢的要因:晩婚化、高齢の出産とそれに伴う妊娠合併症の増加
- 医原的要因:生殖補助医療技術による多胎妊娠(現在では2007年の多胎妊娠防止のための移植胚数 ガイドラインにより移植する数を制限しています)
- 感染症の増加による絨毛膜羊膜炎
- 環境要因:妊娠中の喫煙、過剰なダイエットなど
わが国では早産の赤ちゃんはどのくらいの在胎週数で生まれているのでしょうか?
早産は全妊娠の約5%に起こると言われています。母子保健の統計によれば、1989~2018年に生まれた33,489,101人の赤ちゃんのうち早産は1,771,865人(5.3%)で、20人に一人の早産児が産まれています。在胎週数別の早産児の内訳では、満32~36週(出生体重はほとんどの赤ちゃんが1,500gを超えています)の赤ちゃんが約80%ですが、満32週未満のより未熟な赤ちゃんも20%を占めています。
早く産まれた赤ちゃんにはどのような合併症があるのでしょうか?
早産児は、早い週数で産まれる程、すべての器官が未熟な状態で産まれてきます。
その中でも、赤ちゃんが生まれた直後に最も問題となるのは、「胎外で欠かせない肺の成熟」です。
お母さんの胎内では、赤ちゃんは胎盤を通じて酸素と二酸化炭素のガス交換を行っていますが、胎外では、産まれた直後から自分の肺でガス交換を行うことが必要となります。
肺でのガス交換がうまく行えるためには、空気が入るための肺胞という風船のような袋がしっかり膨らんだ状態に保たれていることが必要です。肺胞が膨らんだ状態になるために必要なのが肺サーファクタントという物質です。この物質は在胎34週未満の早産児はその量が不十分で、「呼吸窮迫症候群」という肺の病気が起こり、自力では呼吸が十分に行えません。
肺に空気が入っていないため、レントゲン検査で肺全体がすりガラスのようにみえます。重症な赤ちゃんでは生まれてすぐに呼吸器などによる補助が必要となります。
また、早産になった原因に絨毛膜羊膜炎などの感染が関係している場合、全身の感染症(敗血症)や重症の腸の感染症(壊死性腸炎)などの合併症を引き起こす可能性があります。
早産の予防
早産を予防するためには、その前段階での切迫早産の徴候を早く見つけることが大切です。切迫早産について、その徴候と危険性についてよく知っておくとともに、切迫早産のリスクのあるお母さんは、妊婦検診で子宮頚管の短縮や絨毛膜羊膜炎の有無などの切迫早産を初期段階で早く見つけることが重要です。
切迫早産になりやすいリスク因子は?
切迫早産の原因で最も多いのが感染です。正常な腟は乳酸菌によってPH4.0と弱酸性に保たれ腟内の雑菌が増えないようになっています。ストレスなどの原因で乳酸菌が減少すると腟内の常在菌のバランスが崩れ、子宮頸管まで炎症が広がり、子宮収縮や破水が起こります。妊娠30週未満での早産の原因として感染は最も多く見られます。
また、子宮収縮などの自覚症状がないのに子宮口が開いてしまうのが子宮頸管無力症です。体質や円錐切除などの手術が関係します。多くは妊娠20~24週頃の早い時期に検診で見つかります。前回までの妊娠で子宮頸管無力症と診断されたお母さんは、妊娠12週ごろに子宮頸管をしばる手術(子宮頸管縫縮術)が必要になる場合があります。
多胎妊娠では子宮収縮が起こりやすく管理入院が必要になることがあります。
トイレの温水式洗浄器を使いすぎると、肛門にあたった洗浄水が腟に入り、大腸菌などを持ち込んでしまうリスクがあり、注意が必要です。
1996年、アメリカで、虫歯や歯周病が「早産の危険因子の1つになる」という報告が発表されました。陣痛は子宮収縮作用のあるプロスタグランディンという物質によって引き起こされます。このプロスタグランディンは、炎症によって増えるサイトカインという活性物質の刺激で分泌されます。
細菌に感染して絨毛膜羊膜炎が起こると、サイトカインの放出によって、プロスタグランディンが分泌され、子宮収縮が起きて早産になりますが、これと同じメカニズムが歯周病にも当てはまります。
妊娠中のお母さんは、つわりの時期が落ち着いた頃に、一度、歯科検診を受けておきましょう。
切迫早産の診断
妊娠22週以降37週未満の時期に、下腹部の痛みと腹部の緊満感、少量の性器出血(時に破水)などの症状が見られ、規則的な子宮収縮が認められ、経腟超音波検査で内子宮口の開大や頸管短縮の所見が見られた場合、「切迫早産」と診断されます。
切迫早産の原因としては絨毛膜羊膜炎(CAM:chorioamnionitis)が重要
絨毛膜羊膜炎は、細菌性膣炎から胎児を包んでいる卵膜(羊膜、絨毛膜)に細菌感染が広がって起こります。不顕性の段階では、膣分泌物や頸管粘液の乳酸菌が減少し、膣分泌物の悪臭がみられるようになりますが、お母さんには発熱などの症状は見られません。
その後、母体の発熱や頻脈がみられるようになり、血液検査で炎症反応が上昇し、進行すれば、羊水感染から胎児感染へと炎症が広がり、早産になってしまいます。
不顕性感染の早い段階で治療を開始すれば妊娠の継続が可能ですが、顕性感染まで進行すると治療を行っても頸管長の短縮や前期破水をきたし、多くが早産に至ってしまいます。
早期診断に有用な早産マーカー
絨毛膜羊膜炎が臨床的に診断された段階ではかなり進行しており、この時点で治療を開始しても効果は期待しにくく、早産となる可能性が高くなります。早産マーカーは早期発見、早期診断するための検査で、不顕性絨毛膜羊膜炎の時点での診断に役立ちます。
顆粒球エラスターゼ
顆粒球エラスターゼは、細菌感染が起こると、その部位に最初に集まる顆粒球(白血球の一種)から放出される酵素の一種で、膣炎や頸管炎が起こると頚管分泌中に検出されます。顆粒球エラスターゼは早産や前期破水がおこる2週間前くらいから上昇します。
癌胎児性フィブロネクチン
癌胎児性フィブロネクチンは胎児由来の蛋白質で、胎児の血液や羊水中に認められます。通常は、頸管粘液や腟分泌液中には認められませんが、絨毛膜羊膜炎や頚管炎、破水があると頸管粘液や腟分泌液中に認められるようになります。早産が起こる約 1~2 週間前より高値を示すといわれていますので、早産の予測が可能となります。
切迫早産の治療
切迫早産の治療方針は、絨毛膜羊膜炎の有無とそれが顕性か不顕性か、胎児の肺が成熟しているかどうかによって異なります。
絨毛膜羊膜炎がないか不顕性の場合には、できるだけ、妊娠継続がはかられますが、顕性絨毛膜羊膜炎の場合には、赤ちゃんの肺の成熟の程度と在胎週数によって、治療方針が異なります。赤ちゃんの肺が成熟しているかどうかは、破水によって羊水が採取できれば、羊水を調べることで判断できます。
副腎皮質ステロイドは、胎児の肺サーファクタントの産生を増加させ、赤ちゃんの呼吸窮迫症候群を予防できます。そのため、分娩が近くなったら生まれる前にお母さんに副腎皮質ステロイドを投与します。その場合副腎皮質ステロイドの効果があらわれるのには最低でも投与後48時間が必要で、投与後2日間は子宮収縮抑制薬を投与し、出産を延期する必要があります。
さいごに
私も初めての子どもを妊娠した時に切迫早産の徴候がありました。研修医一年目で、慣れない業務に、いつもストレスを感じていました。子宮収縮抑制剤を飲みながら勤務をしていましたが、途中からお腹の張りが強くなりお休みしました。
多くの働くお母さんもなかなか休めないことも多いと思いますが、どうぞ無理しないでください。そして、お腹の張りなど切迫早産の徴候がある妊娠中のお母さんが、赤ちゃんのためにももっと安心して仕事を休めるようになることを願っています。
辛い思いをする人がいませんように。
ではまた。 Byばぁばみちこ