【連載ばぁばみちこコラム】第三十八回 赤ちゃんに問題となる妊娠合併症 ―羊水の異常―
妊娠中のお母さんの子宮を満たしている羊水(ようすい)という液体は、お腹の中で赤ちゃんが順調に育つのに欠かせません。赤ちゃんに問題があると羊水の量に異常が認められることがあります。また、羊水量の異常によって、お母さんの妊娠経過や赤ちゃんの発育に影響を及ぼすことがあります。
羊水とは?
子宮内で赤ちゃんを囲む「卵膜」と呼ばれる3層の膜の一番内側(胎児の側)の薄い透明の膜が羊膜です。羊水はこの羊膜で囲まれた空間に満たされており、その中に赤ちゃんが浮かんでいます。
羊水は、弱アルカリ性の無色透明な液体で、赤ちゃんの発育に重要な役割を持っています。
羊水量は妊娠10週目頃には約30mlと、ごく少量ですが、その後少しずつ量が増え、妊娠32週頃にピーク(約800ml)となります。その後少しずつ減少し、妊娠末期には500ml程度になります。また、予定日を過ぎると、さらに羊水量は減少します。
羊水の産生と吸収
羊水は産生と吸収が繰り返され、羊膜で囲まれた空間の中で循環しています。
羊水のほとんどは赤ちゃんのおしっこからできている
妊娠初期の頃の羊水の成分はよく分かっていませんが、お母さんの血液中の血漿などが主な成分だと考えられています。妊娠中期以降になると、羊水のほとんどは赤ちゃんの「おしっこ」からできています。赤ちゃんが口から飲み込んだ羊水は最終的に腎臓で濾過され、再びきれいな羊水となります。
老廃物は臍帯を通じて母体から排泄されるため、胎児の尿には老廃物は含まれていません。
その他にも、気道からの肺胞分泌液なども羊水の一部となります。
羊水は赤ちゃんが飲み込んで消化管から吸収されている
赤ちゃんが口から飲み込んだ羊水は胃から小腸へと送られ吸収されます。吸収された水分は血液によって腎臓に送られ、尿として排出されます。また、肺に送られた水分は、肺胞分泌液として羊水中に排出されています。
羊水の役割は?
羊水には大切な3つの役割があります。
羊水の最も大事な役割は、胎児の肺の機能を育てることです。
胎内では赤ちゃんは、羊水を肺に取り込み、吐き出すことを繰り返しています。この「呼吸様運動」によって、出生後の肺呼吸に必要な肺胞が膨らみ、肺機能の成熟が促されます。
2つ目は胎児を保護することです。
お母さんが転んだり、お腹をぶつけても、液体の入った空間があることで、赤ちゃんに直接衝撃が伝わらず守ることができます。
3つ目は、自由に運動する空間としての役割です。これによって筋肉や骨格などの発達が促されます。この赤ちゃんの動きは、妊娠18~20週頃から、胎動としてお母さんにも感じられるようになります。
羊水の量を測る方法
赤ちゃんが胎内で元気に発育するには羊水の量が大切で、妊婦健診の際に超音波検査で羊水の量が適切かどうかを調べます。
超音波検査で羊水量を測るには、次の2つの方法があります。
①羊水インデックス(AFI:Amniotic Fluid Index)
子宮腔をお母さんのおへそを中心に上下、左右に4つに分けて計測します。
超音波のプローブの端子を床に垂直に当てて、それぞれ4つの部分での最大の羊水の深さを測定します。その4つの合計をcmで表したものが羊水インデックスで、その値によって、羊水量が多いか少ないかを判定します。
②羊水ポケット(MVP:maximum vertical pocket)
超音波のプローブをお母さんの腹壁に対して垂直に当てて、羊水腔が最も広くなる断面での子宮内壁から胎児部分(または対側の子宮内壁)までの距離を測定します。
どちらの方法も測定のやり方によって誤差がありますので、羊水過多や羊水過少が疑われるお母さんでは、継時的に2つの方法で経過を見ることが勧められます。
どんな時に羊水過多が生じるのか?
羊水の量が800mlを超えると「羊水過多」と診断されます。羊水過多は、赤ちゃんが尿を過剰に作りすぎているか、または飲み込んで吸収する量が低下し、羊水の産生と吸収のバランスが失われていることを示しています。
羊水過多の約60%は「特発性」で原因は不明ですが、消化器系や脳神経系に異常がある可能性がありますので、原因を調べる必要があります。
羊水過多症がお母さんと赤ちゃんへ与える影響
羊水過多があり、急激な子宮の増大や体重の増加がみられ、腹部の緊満感、呼吸困難、頻尿などの症状があり、超音波検査で、MVP>8cmまたはAFI>24cmであれば羊水過多症と診断されます。
お母さんは急激に子宮が大きくなると、お腹が張り、切迫早産や前期破水を引き起こす恐れもあります。前期破水によって急激に子宮が収縮すると、胎盤の早期剝離や臍帯の脱出を起こすことがあり、赤ちゃんは急激に胎児機能不全を起こします。
羊水過多の原因として、胎児の約20%に消化管や中枢神経系に先天性の異常がみられます。
また、赤ちゃんは羊水が多いと胎位や姿勢の異常を起こしやすく、周産期の死亡率は健常児の2~7倍に増加します。
治療は入院と安静が基本で、羊水過多の程度がひどければ、羊水除去を行うこともあります。また、子宮収縮抑制剤の投与によって前期破水や切迫早産を予防し、妊娠の維持を図ることもあります。
どんな時に羊水過少が生じるのか?
羊水量が100ml以下の場合に「羊水過少」されています。臨床的には妊娠週数に比べ子宮が小さく、超音波検査で、MVP<2cmもしくはAFI<5cmであるとき、羊水過少症と診断されます。
羊水過少は胎児の尿が作られないか、前期破水による羊水量の流出が原因ですが、約半数は前期破水が原因です。その他、お母さんの要因として膠原病などに伴う胎盤機能不全や利尿剤の使用などがあります。
羊水過少症がお母さんと赤ちゃんへ与える影響
羊水過多症はお母さんと赤ちゃんの双方に影響がありますが、羊水過少症は、主に赤ちゃんに影響を及ぼします。
赤ちゃんの胸郭や肺が圧迫され、呼吸様運動が制限され、出生後に必要な肺の成長が障害されることが、羊水過少症の最も深刻な問題です。
また、羊水量が少ないと、赤ちゃんを外力から守る安全性が失われるだけでなく、胎動による筋肉や骨格などの発育を妨げることになります。
羊水過少症に対する本質的な治療はなく、安静と入院によって経過を見ることになります。
赤ちゃんは子宮内発育遅延や染色体異常を含めた先天異常を合併していることがあり、極端な羊水過少の場合には、原因を調べることが必要となります。
胎児機能不全によって、赤ちゃんの心拍数の低下や、血流の悪化がみられた場合には予定日前でも帝王切開が必要になることがあります。
お産の時にも羊水は大切!!!
妊娠中に大切な羊水ですが、お産の時にも大きな役割を持っています。出産前の陣痛では、子宮が大きく収縮しますが、羊水は陣痛による子宮の収縮から赤ちゃんを守ります。また、羊水が子宮口を広げ、破水をすることで赤ちゃんが産道を通りやすくなります。
さいごに
胎内で赤ちゃんが健康に育ち、元気に産まれるために重要な役割を持っている羊水。
日本の妊婦健診は非常にていねいに行われており、妊娠中の定期健診では、必ず羊水の量はチェックされています。安全に安心して健康な赤ちゃんを産むためにも、妊婦健診を必ず受けてください。
辛い思いをする人がいませんように。
ではまた。Byばぁばみちこ