【連載ばぁばみちこコラム】第三十九回 赤ちゃんに問題となる妊娠合併症 ―血液型不適合妊娠―
お母さんの血液中にない抗原が胎児に認められる場合、血液型不適合妊娠と呼んでいます。
赤ちゃんの抗原によってお母さんの血液中に抗体が作られ、胎盤を通して胎児に移行することによって、赤ちゃんの赤血球が壊され、赤ちゃんに貧血や黄疸などを引き起こすことがあります。
血液型とは? ABO式血液型とRh式血液型
赤血球の型を血液型と呼んでおり、赤血球の表面にある抗原によって決まります。血液型には、ABO式血液型だけでなく、Rh式血液型など37種類もの血液型があります。
ABO式血液型
最もよく知られている血液型で、A型、B型、AB型、O型の4つに分けられています。赤血球の表面にA型はA抗原、B型はB抗原、AB型はAとB両方の抗原がありますが、O型にはどちらの抗原もありません。
ABO式血液型で血清の中にある抗体を「規則抗体」と呼んでおり、A型は抗B抗体、B型は抗A抗体、O型には抗A、抗B抗があり、AB型に抗体はありません。
Rh式血液型
赤血球にあるC、c、D、E、eという5つの抗原によって決まる血液型がRh式血液型です。
この中で最も抗原性が強いのはD抗原で、D抗原がある場合をRh(+)、ない場合をRh(−)と表しています。日本人ではRh(−)の人は0.5%程度ですが、白人は15%前後の人がRh(−)です。
血液型不適合妊娠の中で、最も重症度が高いのはRh不適合妊娠、特にD型不適合です。
Rh式血液型はABO式血絵型と違って、通常血液中に抗体はありませんが、過去の輸血や妊娠によって抗体ができている場合があり、それを「不規則抗体」と呼んでいます。
血液型不適合妊娠とは?
お母さんの血液中にない血液型の抗原がおなかの中の赤ちゃんにある場合を「血液型不適合妊娠」と呼んでいます。胎盤では、お母さんと赤ちゃんの血液が直接混ざり合うことはありませんが、妊娠や出産、手術などが原因で赤ちゃんの赤血球がお母さんの血液の中に入ってしまうことがあります。
お母さんの体内では、入ってきた赤ちゃんの赤血球の抗原に対して抗体が作られ、この抗体が胎盤を通過して赤ちゃんの血液の中に入ると、抗原抗体反応を起こし胎児の赤血球を壊します。お母さんに症状はありませんが、赤ちゃんは貧血になり、さらに進めば胎内で亡くなってしまうこともあります。
また、強い貧血や黄疸のため、産まれた後にも治療が必要となることがあり、これを血液型不適合妊娠による新生児溶血性疾患と呼んでいます。
血液型不適合妊娠の中で、最も重症なのがRh式血液型不適合妊娠で、Rh(−)のお母さんが、Rh(+)の赤ちゃんを妊娠した場合に起こります。
また、ABO型の不適合妊娠は、お母さんがO型で、A型、B型の赤ちゃんを妊娠している場合に起こる可能性がありますが、Rh式血液型不適合妊娠に比べ軽症です。
Rh式血液型不適合妊娠はどのように起こるのでしょうか?
本症はRh(-)のお母さんが、Rh(+)の赤ちゃんを妊娠した場合に起こります。お母さんの血液型がRh(−)でも、お母さんに輸血や流産などがなければ、初めての妊娠では何も起こりません。
初めての妊娠で、妊娠中や分娩時にお母さんの体の中に入った胎児のD抗原によって、お母さんの体の中で抗D抗体(IgM) が作られます。
2回目以降の妊娠で赤ちゃんがRh(+)の場合、母体内では、お母さんに移行したD抗原に対して抗D抗体(IgG) が産生され、胎盤を通じて赤ちゃんに移行します。赤ちゃんに移行した抗D抗体は赤ちゃんの赤血球のD抗原と抗原抗体反応を起こし赤ちゃんの赤血球を壊し、貧血や胎児水腫などさまざまな症状を引き起こします。
胎児の血液は、胎盤の亀裂などにより、妊娠の初期からお母さんの体に少しずつ入っており、分娩時の胎盤の剥離によってほぼ全例で胎児の血液は母体の中に入ってしまいます。そのため、妊娠回数が多くなるほど、お母さんが抗D抗原へさらされる頻度や抗体量も増加し、2回目以降の妊娠では、赤ちゃんに貧血などの重篤な症状がみられるようになります。
Rh式血液型不適合妊娠の診断
お母さんの血液型がRh(-)、夫の血液型がRh(+)で、お母さんの不規則抗体の有無を調べる間接クームス試験が陽性の場合にRh式血液型不適合妊娠と診断されます。
不規則抗体とは?
赤血球に対する抗体のうちABO式血液型の抗A抗体、抗B抗体は先天的な抗体で、規則抗体と呼ばれています。ABO式血液型以外の後天的に生じた抗D抗体などの抗体が不規則抗体で、血液中の不規則抗体の有無を調べる検査には、間接クームス試験と直接クームス試験があります。
妊娠中のお母さんの血清中の不規則抗体を調べる検査が、間接クームス試験で、妊娠中のお母さんの抗D抗体の検査に用いられます。一方、直接クームス試験は、赤血球に付着している不規則抗体を調べる検査で、抗D抗体による新生児溶血性疾患の検査に用いられます。
Rh式血液型不適合妊娠は赤ちゃんにどのような影響があるのでしょうか?
胎児に対する影響
最も重大な影響は胎児の貧血とそれに伴う胎児水腫と呼ばれる状態です。
抗D抗体が付着した胎児の赤血球は、主に脾臓で破壊(溶血)され、おなかの中の赤ちゃんは貧血になります。貧血によって酸素不足が続くと、全身に酸素を送るために多くの血液を送りだそうとして心臓に負荷がかかり、心不全から最終的に胎児水腫という状態になってしまいます。
胎児水腫では、赤ちゃんの体がむくんだり、胸やおなかに水が溜まったりするなどの症状があらわれ、胎内や生後早期に亡くなるなど予後は不良です。胎児の超音波検査で、赤ちゃんに高度の胎児貧血が認められた場合、胎児輸血などの治療が行われます。
出生直後の新生児に対する影響(新生児溶血性疾患)
出生後に問題となるのは溶血による黄疸(高ビリルビン血症)とそれに伴う核黄疸です。
黄疸はビリルビンという黄色い色素が血液中に増え、全身の皮膚や粘膜が黄色くなる状態です。ビリルビンは破壊された赤血球から作られ、肝臓で間接型から直接型へ変わり、便の中に排泄されます。
胎内では、ビリルビンは胎盤を通じて母体によって処理されているため、問題となりませんが、生直後の赤ちゃんでは、肝臓でのグルクロン酸抱合が十分に行われず、間接ビリルビンが増加します。
間接ビリルビンは脂溶性で、出生早期の血液脳関門(脳と血液のバリア)が未完成な状態では血液から脳に移行し核黄疸を引き起こし、後遺症として脳性麻痺などを残すことがあります。
高ビリルビン血症に対しては、核黄疸を予防するために光線療法や交換輸血などが行われます。
Rh式血液型不適合妊婦の検査と管理
Rh式血液型不適合妊娠は、赤ちゃんに影響が大きいため慎重な管理が必要です。
初期の妊婦健診では、全員にABO式血液型とRh式の血液型の検査が行われます。その結果、お母さんがRh(−)で、父親がRh(+)の場合、不規則抗体検査である間接クームス試験が行われます。
現在では、不規則抗体検査はRh式血液型不適合だけでなく、それ以外の血液型不適合妊娠の可能性も調べる目的で全ての妊婦さんを対象に妊娠初期にルーティン検査として行われています。
未感作 【妊娠初期のクームス試験で陰性(−)=抗D抗体がない場合】
4週毎に間接クームス試験で抗D抗体の有無を確認します。
陰性の場合には、妊娠28週前後に抗Dヒト免疫グロブリンを投与し、出産後に赤ちゃんの血液型がRh(+)であれば、出産後72時間以内に母体へ抗Dヒト免疫グロブリンを投与します。
また、妊娠7週以降まで胎児の生存が確認できた自然流産、妊娠7週以降の人工流産、腹部打撲後、妊娠中の検査・処置があった場合にも予防的に抗ヒトD免疫グロブリンを投与することが望まれます。これらの母親への投与により、赤ちゃんから母体内に入ったD抗原を中和し、次回以降の妊娠を安全に迎えることができるようになります。
感作 【妊娠初期のクームス試験で陽性(+)or妊娠中に抗体が陽性化=抗D抗体がある場合】
ハイリスク妊娠として厳重な管理が必要です。
抗D抗体が陽性の場合、妊娠後半期は、2~4週ごとに抗体価を検査します。その結果、抗体価が32倍以上の場合(施設により基準が異なります)は、胎児貧血や胎児水腫などの有無を超音波検査などで確認していきます。
また、母体の抗D抗体価が非常に高い場合は母体の血漿交換を行う場合もあります。
ABO式血液型不適合妊娠は赤ちゃんにどのような影響があるのでしょうか?
ABO式血液型不適合妊娠は、お母さんがO型で、おなかの中の赤ちゃんがA型、またはB型の場合に起こることがあります。 日本人の血液型の割合はA型が40%、次いでO型が30%、B型が20%、もっとも少ないAB型は10%ですので、ABO式血液型不適合の組み合わせはめずらしくはありません。
ABO式血液型不適合妊娠はRh式不適合妊娠と異なり、ほとんどが無症状で経過し、産まれた後におこる黄疸がほとんど唯一の症状です。
お母さんが持っている抗A抗体、抗B抗体の大半はIgM抗体で、赤ちゃんに移行しないこと、赤ちゃんのA抗原、B抗原が未発達なため抗原抗体反応が起こりにくいためです。
赤ちゃんの直接クームス試験はほとんどの場合陰性で、診断のためには、子どもの赤血球に結合しているお母さん由来の抗A、抗B抗体を解離させて、赤ちゃんと同型の血球を用いた間接クームス試験(抗体解離検査)が行われます。
さいごに
血液型不適合妊娠で問題になるのはRh式血液型不適合妊娠です。自分のABO式血液型は知っていても、Rh式までは意識していなかったというお母さんもいらっしゃるかもしれません。妊娠初期の妊婦検診では必ず血液型の検査をしますので確認してみてくださいね。
検査の結果、Rh(−)だったからといって、必ず赤ちゃんに影響があるというわけではありません。きちんと健診を受け、異常の早期発見ができるようにしていきましょう。
また、抗D人免疫グロブリン製剤をお母さんに注射することで、お母さんの血液に入った赤ちゃんの抗原を中和し、抗D抗体ができるのを予防できますので、2回目以降も安全に妊娠・出産することができます。
また、抗D人免疫グロブリン「JB」を注射されたお母さんに、病院からお渡しする「血液型記録カード」には、今後お母さんが抗D人免疫グロブリン製剤の注射が必要になるケースが記載されています。 必要に応じて医師に提示できるよう、母子健康手帳と一緒に大切に保管して下さいね。
辛い思いをする人がいませんように。
ではまた。 By ばぁばみちこ