【連載ばぁばみちこコラム】第五十一回 子宮外への適応 -消化管疾患- 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 赤ちゃんが子宮内で発育するために必要な栄養は胎盤を通じてお母さんから供給されています。胎児期における赤ちゃんの消化管の主な役割は、羊水を飲み込み、腸で吸収することによって、羊水の量を調節することです。

胎内で消化管はどのようにでき上っていくのでしょうか?

 消化器系は、口腔→咽頭→食道→胃→小腸→大腸という一本の管からできています。消化管のもととなるのが原始腸管と言われるもので、妊娠6週ころまでに、胚子(胎芽=胎児の元)の頭側と尾側が折りたたまれてできる前腸および後腸、卵黄嚢とつながっている中腸から形成されます。

 前腸からは咽頭から十二指腸上部まで、中腸からは十二指腸下部から横行結腸の右2/3まで、後腸からは横行結腸の左側1/3から肛門までがつくられます。

 前腸の頭側は口咽頭膜という膜で閉じられていますが、その後破れて口の中とつながります。また、食道とその前方にある気管は最初つながっていますが、その後、壁ができて食道と気管が分かれます。肝臓、胆嚢、膵臓などは腸管が膨らんで作られます。

 後腸もまた排泄腔膜と言う膜で閉じられていますが、その後破れて肛門が開きます。

 消化管は連続した一つの管ですが、各器官の作られる位置や境界が、厳密に決っているのは、頭尾軸に沿った位置を決める遺伝子の働きによると言われています。

 

妊娠初期に腸は胎外に脱出している:生理的臍帯ヘルニア

 小腸と大腸の多くの部分を占める中腸は急速に成長して一次腸ループを作ります。この時期に肝臓も大きくなり、そのままでは、お腹の中にすべての腸ループが入らなくなり、妊娠8週中に一時的に臍帯内に脱出します。これを生理的臍帯ヘルニアと呼んでいます。

 臍帯内で腸ループは反時計方向に90度回転し、妊娠12週に脱出していた腸ループはお腹の中に戻り固定されます。この中腸の回転によって、10メートル近い長い腸が、うまく腹腔内に納まることができるのです。

消化管機能の発達:妊娠3334週で消化管機能(嚥下、蠕動、吸収)はほぼ完成

 胎児は妊娠16週ころから羊水を飲み込むことができるようになりますが、吸綴と嚥下が上手に協調して飲んだものを食道の方に飲み込む嚥下反射は妊娠2830週頃に発達し、34週頃に完成します。また、腸管の蠕動運動は3032週以降に成熟して規則的な運動となります。

 羊水の吸収は妊娠1215週頃からみられるようになり、妊娠32週頃になると、飲み込んだ羊水の一部(うぶ毛、胎脂、上皮細胞など)に消化管分泌液や胆汁が混ざり、暗緑色の胎便がつくられるようになります。

乳児の消化機能の特徴:嘔吐と腹部膨満をきたしやすい

 赤ちゃんの胃の大きさは、出生時は30~60mL、6カ月までに120~200mL、6~12カ月頃には200~300mLくらいとなります。産まれたての頃ほど胃の容量は小さく、お乳を飲んだ直後は胃がいっぱいの状態です。

 お乳を飲んだ後におむつを変えようと足を持ち上げるなど、急に体位を変えると一度にたくさん吐くことがあります。また、乳児の胃はたて長で、食道と胃の境の噴門部の括約筋のしまりが悪いため、飲みすぎると一気に吐きやすくなります。ちょうど牛乳パックにストローを刺したまま、両横を押すとミルクが飛び出すのと似ています。これは「いつ乳」と言われるもので、赤ちゃんではよく見られます。哺乳後はすぐに横に寝かせずに、しばらく立て抱きにして、ゲップを出しやすくし、胃に入った空気を抜くことが大切です。

消化管の異常を疑う症状

嘔吐、腹部膨満、排便異常

 「お乳を吐かない赤ちゃんはいない。」と言われるほど、赤ちゃんはよくお乳を吐きます。嘔吐を認めた場合、それが問題のない嘔吐なのか、または病的な嘔吐なのかを見極めることが必要です。また嘔吐が見られても、感染症など消化器の病気でないこともあり、注意が必要です。

 出生後24時間以内に始まり、2~3日で自然に消失する嘔吐が初期嘔吐と言われるもので、新生児にみられる最も生理的な嘔吐です。

 消化器の病気は、症状の発症時期と腹部のレントゲン検査で、おおよその診断ができます。食道閉鎖など上部の消化管閉鎖ほど産まれて早い時期に症状がみられ、胎内で羊水を嚥下し吸収することができないため妊娠中に羊水過多を認めます(38回コラム「羊水の異常」をご参照ください)

 また、嘔吐した内容物にも注意が必要で、唾液を含んだ泡状の嘔吐は食道閉鎖、胆汁が混じった嘔吐は胆汁の流れ口である十二指腸のファーター乳頭の部位より下の閉鎖や狭窄が疑われます。

 正常な赤ちゃんの99%は生後48 時間以内に産まれて初めてのうんちをします。初回の胎便がなかなか出ずに、腹部がだんだん膨れてくるような場合にはヒルシュスプルング病という肛門近くの大腸の病気が疑われます。

 

吐血、下血

 赤ちゃんは血液を凝固させる力が弱く、また低酸素などで腸管への血液の流れが悪くなることがあり、消化管からの出血は比較的よく見られ、新生児メレナと呼ばれています。原因として、ビタミンKに依存している凝固因子の欠乏によるものや、消化管に何らかの異常が認められる場合があります。

 また、お産の時にお母さんの血液を誤って飲んでしまって血便が出ることがあり、仮性メレナと呼ばれています。お母さんの血液には成人型ヘモグロビン(Hb-A)が、赤ちゃんの血液には胎児型ヘモグロビン(Hb-F)が含まれています。Hb-Fはアルカリ性の水溶液を加えても変色しないことを利用したアプトテストで区別ができます。

 

 

 吐血や下血に加えて腹部膨満や全身状態が悪いなどの症状がみられる場合には、腸軸捻転や消化管穿孔、低出生体重児では壊死性腸炎などが疑われます。

 また、最近では新生児-乳児消化管アレルギー症例の報告もみられています。

 

赤ちゃんの消化器系の病気

 赤ちゃんの先天性の消化器系の異常は、産まれる前に超音波検査などで診断されている場合があります。羊水の量が多い場合には先天性食道閉鎖など上部の消化管閉鎖が疑われますが、下部の消化管閉鎖では羊水過多が目立たないこともあり、出生後に嘔吐や腹部膨満などの症状を認めて初めて分かることもあります。

先天性食道閉鎖

 先天性食道閉鎖症は食道が途中で途切れ、胃とつながっていないため、赤ちゃんはミルクを飲むことができません。5,000人に1人程度(日本では年間200人程度)の頻度で産まれます。

 気管と食道は初期の原始腸管の時にはつながっていますが、妊娠4~7週ごろに分かれます。この分離過程がうまく行かず、食道閉鎖が発症すると考えられています。

 先天性食道閉鎖症は5つの型に分類され、最も多いのはC型で、85%を占めます。次に多いのはA型で10%を占めます。E型は単に気管食道瘻という病名で呼ぶこともあります。

 妊娠中に羊水過多があり、約半数程度の赤ちゃんが出生前の超音波検査で見つかります。 また、出生後、唾液が溢れチューブを胃に挿入しようとしても途中で反転(コイルアップ)してしまうことで気づかれます。

 

 

 唾液の誤嚥や、C、D型では胃液の流れ込みによる肺炎や、胃に気管から空気が入りお腹が膨れることがあります。また、E型では、出生直後はわからず、肺炎を繰り返しのちに分かることがあります。E型先天性食道閉鎖症は患者さんの5%程度にしか見られないまれなタイプですが、赤ちゃんが何度も肺炎をおこしたり、ミルクを飲んでいるときによくむせる場合には、先天性食道閉鎖症の可能性も考える必要があります。

 

 

 気管と食道が分離する妊娠4週ごろは心臓が形成される時期と重なっているため、食道閉鎖は約30%の赤ちゃんに心臓の異常が合併しています。また、18トリソミーなどの染色体異常や、VACTERL連合(脊椎の異常(V)、鎖肛(A)、心臓の異常(C)、気管食道瘻(TE)、橈骨異形成(R)、四肢の異常(L)から成る)といった病気を合併することもあります。

胃軸捻転症

 胃は周りの組織によって固定されていますが、赤ちゃんはこれらの固定が弱く胃がねじれやすい状態にあります。生まれたての赤ちゃんでげっぷが出にくい、おなかが張っている、ミルクを吐くなどの症状がある場合、最も多い原因は胃軸捻転症です。

 回転する軸によって、胃の噴門と幽門を結ぶ線を軸にして回転する長軸捻転と、胃の小弯と大弯を結ぶ線を軸にして回転する短軸捻転に分類され、ねじれによって食道を圧迫するため、げっぷが出にくくなります。赤ちゃんの胃軸捻転症の多くは上体を高く、右側臥位で寝かせる、少しずつ回数を分けてミルクを飲ませる、浣腸で排便・排ガスを促すことで自然に嘔吐がなくなります。

 

新生児胃破裂

 新生児胃破裂は、胃壁が弱いことに加え、周産期の低酸素血症による胃の血流の悪化、哺乳によって胃の内圧が上昇するなどが原因で起こり、多くは胃の大弯側で破裂が起こります。新生児の腹膜炎の原因としては最も多いものです。

 生後2〜3日ころに、突然の腹部膨満・呼吸困難・チアノーゼなどの症状で発症し、急速にショック状態に至ります。 破裂が起こる前の症状として哺乳力の低下、腹部を触ると嫌がる、血性嘔吐などの症状がみられることがあります。また、腸回転異常症や中腸軸捻転など下部の消化管の通過障害を認めることもあります。

 腹部のレントゲン検査で、胃から漏れた大量の遊離ガスが横隔膜の下にたまっている所見がみられます。可及的速やかに手術を行いますが、救命率は約50%程度です。

 

先天性十二指腸閉鎖症

 出生早期から嘔吐、上腹部の膨満が認められる。ファーター乳頭開口部(胆汁の出口)より上部の閉鎖では嘔吐物は胃液様ですが、開口部より下部の閉鎖の場合は胆汁性となります。

 低出生体重児に多く、ダウン症や他の消化管異常、先天性心疾患などを合併することがあります。腹部のレントゲン検査で、Double bubble sign(二重泡像)を認めます。

 胃内へ吸引チューブを挿入し減圧を行い、全身状態が落ち着いた48時間頃を目安に手術を行います。

先天性小腸(空腸、回腸)閉鎖症

 胎生期に生じた腸捻転や腸重積などによる腸管への血行障害によって、小腸閉鎖が生じるとされています。腹部膨満と胆汁性嘔吐がみられ、下部の小腸閉鎖ほど腹部全体が膨隆します。

 腹部のレントゲン検査では、閉塞部位が上位の場合には3~4つの鏡面像を認めますが、下位になるにつれ鏡面像が多くなります。

小腸閉鎖では、腸管ガスが蠕動運動によって送り込まれ、腹部膨隆が進行し、穿孔の危険性があるため早期の手術が必要となります。

ヒルシュスプルング病

 ヒルシュスプルング病は、腸の蠕動運動に関係がある「神経節細胞」が生まれつきないため腸の動きが悪く、腸閉塞や重い便秘症をおこす病気です。

 消化管の神経節細胞は妊娠512 週頃に食道の口側に発生し、肛門に向かって分布していきますが、この過程に異常がおこり、分布が途中で止まってしまうことが原因とされています。発生頻度は、約5,000人に1人で、男女比は3:1で男児に多くみられます。遺伝による「家族性」のものと原因不明のものがあります。約80%の赤ちゃんは神経節細胞のない腸の範囲が肛門からS状結腸の狭い範囲ですが、大腸の広範囲にわたって神経節細胞が欠損していることもあります。

 生まれてから1日たってもうんちが出ない、お腹が張っている、胆汁の混じった嘔吐があるなどの症状がある場合には、ヒルシュスプルング病が疑われます。また、神経節のない腸管が非常に短い時は、幼児期以降に重度の便秘で診断される場合もあります。診断には注腸造影、直腸肛門内圧測定、直腸生検による神経節細胞の有無の検査を行います。治療は神経節細胞の無い腸を切り取り、神経節細胞のある口側の正常の腸と肛門をつなげる手術が行われます。

 

 

腸回転異常症・腸軸捻転症

 胎児期に小腸と大腸は一旦お腹の外に出た(生理的臍帯ヘルニア)後、回転して長い腸管がお腹の中に戻って固定されます。この過程で、小腸は左上から右下(斜め方向)に走り、カーテンレールに固定され安定した形をとります。この正常な腸管の回転と固定が障害されるのが腸回転異常症と言われる病気です。最も多いのは、回転が途中で止まって根元が束になり、小腸と大腸が扇を広げたような形となるもので、突然根元で腸が捻じれる(中腸軸捻転症)ことがあります。約80%の赤ちゃんでは、生後1か月以内に症状がみられ、急にミルクが飲めなくなり激しく吐く場合は注意が必要です。症状は急激に進むことが多く、腸管の血行が悪くなると血便が出ることもあります。

 

鎖肛

 肛門は後腸からできますが、その過程に異常があると肛門が開口せず、正常な位置に肛門がみられない鎖肛と呼ばれる状態になります。男の子では直腸と膀胱や尿道との間に、女の子では直腸や膣との間に小さな孔が生じることがあります。

 直腸の末端から肛門部の皮膚までの距離が近いものが低位型で、皮膚より遠く離れているものは、程度によって中間位型と高位型に分類されます。

 

 

 赤ちゃんをさかさまにして骨盤部の側面のレントゲン写真を撮り診断しますが、産まれて12時間以前は腸管ガスが直腸盲端にまだ到達していないため、それ以降に撮影を行う必要があります。人工肛門を造り、生後3ヶ月頃を目安に根治術を行います。

臍帯ヘルニア

 赤ちゃんの腹壁は妊娠3~4週頃に作られますが、腹壁の中央部が臍帯の位置で欠損し、腸管がその開口部から突出し、薄い膜で覆われている状態が、臍帯ヘルニアです。

 腹腔の発達が悪く、多くは腸回転異常症を伴い、先天性の心臓の病気などの先天異常を伴うこともあります。臍帯ヘルニアの治療は、おなかの外に出ている臓器を手術でおなかの中に戻すことですが、外に出ている臓器が多い場合や肝臓も出ている場合は何回かに分けての手術が必要です。

 臍帯ヘルニアのほとんどは、妊娠中に超音波検査によって生まれる前に診断されます。臍帯ヘルニアは程度や染色体異常などの合併奇形によって、その予後が大きく変わります。

 

 

腹壁破裂

 臍帯の右側の腹壁に欠損があり腸管が腹腔外へ脱出する病気が腹壁破裂です。この病気は5,000~10,000人に1人くらい見られる稀な病気で、胎生3~4週頃に腹壁が十分に形成されないことが原因と言われており、遺伝性疾患ではなく、また、先天性心疾患などの重大な合併異常は比較的少ないと言われています。

 低出生体重児に多く、感染などの恐れがあるため、出生後すぐに治療を行う必要があります。脱出している腸管が大きい場合は、「サイロ」という筒状の袋を作り、出ている腸管をしばらくの間、新生児の腹部の上に吊るし、少しずつ時間をかけて腹部内に戻します。

 最近は出生前診断をされることが多く、あらかじめ手術の準備をした上で、帝王切開による出産によって救命率が向上しています。

 

さいごに

 赤ちゃんの消化管の病気は消化管閉鎖が最も多く、次いで消化管破裂や腸回転異常などがあります。胎内では、消化管の閉鎖のため飲み込んだ羊水が吸収されず羊水過多を起こします。

 妊娠中に超音波検査で異常が発見されることがありますが、軽症例では、出生後に初めて診断されることもあります。

 産まれて1カ月程度は、赤ちゃんが元気にミルクを飲んでいるか、お腹が張ったり、何回も吐いたりなどの症状がないかなど、気を付けてあげてくださいね。

ではまた。Byばぁばみちこ