【連載ばぁばみちこコラム】第五十九回 子どもをめぐる法律(2)-発達障害者支援法―
落ち着きがなく教室の中をウロウロ歩き回る、人とのコミュニケーションが苦手、思うようにならないと癇癪を起すなど、どこか変わっていて、周りを戸惑わせる子ども達。
子どもの発達は一人ひとり違い、これらの行動が子ども自身と周りに問題を生じなければ、その子の「個性」として見守ることができますが、両親が育てにくさを感じていたり、子ども自身が周りとの関係につらさを感じたりする場合には発達障害を考える必要があります。
発達障害とは?
発達障害は、生まれつきの脳の発達のバランスにかたよりがあり、幼児の頃から行動や情緒面で定型発達の子どもと違った発達を示します。
「自分の感情をコントロールする」「物事に集中する」「他人の表情から感情を読み取る」などが苦手です。認知機能やイマジネーション(創造性)、コミュニケーションなどに偏りや歪みが見られ、それによりいわゆる「困った行動」につながります。
お母さんの育て方やしつけが原因ではない
「お母さんはどういう育て方やしつけをしているの?」、「愛情が不足しているのではない?」などお母さんの育て方が原因であるかのように誤解されやすいのですが、発達障害は親の育て方などの後天的な原因によるものではありません。
周りの人が子どもや両親に不適当な関わり方を続けると、育てにくさを感じ悩んでいるお母さんをますます追い込んでしまいます。また、子どもにも不安障害や引きこもりなどの「二次障害」を引き起こす可能性がありますので、発達障害に対する正しい理解と関わりが必要です。
発達障害の種類
発達障害には、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習障害などが含まれます。一口に「発達障害」と言っても、特性が重なり合っていることが多く、特性の現れ方は一人ひとり違っています。
自閉スペクトラム症(ASD:Autistic Spectrum Disorders)とは?
「スペクトラム」は「連続体」という意味です。自閉症には一人で生活することが難しい重度の自閉性障害を持つ人から、ややこだわりが強く個性と言ってもよい程度の人まで、様々な症状が連続しており、その境がないため、自閉スペクトラム症と呼ばれています。
自閉スペクトラム症の人は、「コミュニケーション(対人関係)の障害」と「興味や行動への強いこだわり」という2つの特性を併せ持っています。
これらの特性がある「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」を総称して自閉スペクトラム症と呼んでいます。
自閉スペクトラム症は、相手とのやりとりの中で、言葉や視線、表情、身振りなどを交えて自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを読み取ったりすることが苦手です。こだわりが強く特定のことに強い関心を持つことが多く、また、音や光などの感覚に過敏さを認めることもあります。
自閉症は、言葉の遅れや知的障害を伴いますが、高機能自閉症では、知的障害は見られません。また、アスペルガー症候群の人はこだわりが強く、コミュニケーションは苦手ですが知的障害はなく、人によっては優れた才能を発揮することがあります。
注意欠如/多動症(ADHD:Attention Deficit Hyperactivity Disorder)とは?
子どものADHDの特性として、「じっとできない」「乱暴」などの多動傾向があげられますが、一方で「ぼーっとしている」「集中できない」「忘れ物が多い」など、不注意が目立つ子どももいます。「多動傾向」は幼児期や小学生くらいまでで、だんだん治まってくることが多く、中学、高校、大学生になってくると「不注意」が目立ってくるケースが増えてきます。
主な症状は ①不注意 ②多動性、③衝動性の3つです。これらの症状が12歳以前から認められ、それによって発達や勉強などに影響があり、2つ以上の場面(学校、家庭など)で6か月以上続いている場合にADHDと診断されます。
1997年に精神科医の司馬理英子先生がADHDを「のび太・ジャイアン症候群」と命名しています。じっとしていることが苦手で、すぐに乱暴するジャイアンは「多動性衝動性優勢型」、ぼんやりで忘れ物が多いのび太くんは「不注意優勢型」です。子どもによってどの症状が優位であるかは個人差がみられます。
学習障害(LD:Learnibg Disability)とは?
全般的な知能や視力、聴力には問題がないにもかかわらず、「読む」、「書く」、「計算する」といった特定の学習が著しく苦手な状態を(限局性)学習障害と言います。
脳の働きの偏りが原因で、「読み」「書く」「計算」に関わる脳の領域の働きがアンバランスなために起こります。
学習障害には①読字障害(ディスレクシア:読むことが困難)、②書字障害(ディスグラフィア:書くことが困難)、③算数障害(ディスカリキュリア:計算することが困難)の3つのタイプがあり、それぞれの学習障害に応じた支援が必要となります。
発達障害者支援法とその後の改正
発達障害者支援法は発達障害をもつ人への適切な支援を推進することを目的として2004年に制定、2005年から施行されました。
この法律では発達障害を早期に発見し、発達支援を行うことは国や地方自治体の責任であるとして、一人ひとりの発達障害に配慮した教育や就労を支援するために発達障害者支援センターを設置するように定めています
発達障害に限らず、障害者の権利を保護するための国際条約『障害者の権利に関する条約』(障害者権利条約)は2006年に国連総会で採択され、日本は、2014年にこの条約に批准しました。
この国際条約で強く強調されているのは、「社会的な壁をなくし、障害のあるなしにかかわらず、一緒に生きて行ける社会」の実現です。
発達障害支援法は、障害者権利条約批准の2年後の2016年に一部が改正され、切れ目のない支援と教育における個別支援が強く求められました。
個別支援が求められた背景には、発達障害の人の抱える問題があります。発達障害はどれだけ似たようなものであっても、その特性にはばらつきがあり、人それぞれに違った困難な問題を抱えており、「同じ問題は存在しない」とする個別化の原則(人に支援を行う際の行動の基準として有名な「バイスティックの7原則」の一つ)が根底にあります。この法律では子どもの教育においても、子どもの障害に応じた個別の支援を企画し指導計画を作成すること推進しています。
発達障害の子どもに対する特別支援教育
発達障害は1歳半健診の頃に「言葉の遅れ」や「周りの人への関わりの少なさ」などによって疑われることもありますが、特性を持っていても診断がつかないこともあり、「発達障害のグレーゾーン」と呼んでいます。ご両親が「なんとなく子どもの発育が気になる」など、ご心配を持たれるようであれば、市町村の保健センターにまずは連絡をしてください。発達などに関する相談や医療機関の紹介も可能です。
幼稚園などの友達の中で発達障害の特性が目立ち、問題行動があるようであれば、役所の障害福祉課に問い合わせてください。発達障害の療育に関する相談先を紹介してもらうことができます。
発達障害のある人は、「発達障害者支援法」という法律によって療育相談や専門的な支援を受けることができます。発達障害に対応できる療育機関は自治体から民間まで様々です。早い段階から相談することで、将来の就学を見据えた適切な支援を受けることができます。
また、発達障害を認める子どもの就学に際しては、通常学級以外に、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校などの教育の場があります。
特別支援教育は、様々な障害を持っている子どもが、可能な限り障害のない子どもと一緒に教育を受けることができ(インクルーシブ教育)、一人一人に必要な教育が行えることを目指しています。就学先の決定に当たっては子ども本人と保護者の意向が可能な限り尊重されます。
特別支援学校
特別支援学校は少人数学級で、小・中学部では1学級の児童生徒は6人、高等部では8人が原則です。また可能性を伸ばすために、それぞれの障害に応じ「自立活動」という特別な指導領域が設けられています。
特別支援学級
地域の学校の中に通常学級とは別に設けられています。基本的には、小・中学校の学習指導要領に沿っていますが、子どもの実態に応じて、特別支援学校の学習指導要領を一部参考として特別の教育が行えるようになっています。
通級による指導
通常学級に在籍し、ほとんどは通常学級の学習に参加しますが、一部特別な指導を必要とする場合に、個々の障害に応じた特別な指導を通級教室で受けます。「心理的な安定」「人間関係の形成」「コミニュケーション」などの情緒面において効果が表れています。
発達障害児に対する特別支援教育の改正=障害に対する個別支援と合理的配慮・共生社会
本格的な特別支援教育は2007年から実施されました。これは、国際連合で障害者権利条約が2006年に採択され、日本が2014年日に批准したことと深い関係があります。
批准の2年後の2016年には改正発達障害者支援法が施行され、個々の子どもの障害に応じた個別支援と合理的配慮が求められるようになりました。
また、なるべく共に学ぶことを目指し、通級による指導が小学部・中学部だけでなく、高等学校等にも制度化されるようになりました。
特別支援教育の現状―特別支援学校、特別支援学級、通級指導
少子化が進む中でも、平成22年以降令和2年までの特別支援学校に在籍している子どもの数はやや増加しています。また、地域の学校にある特別支援学級に在籍している子どもの数は2倍に増加しています。特に自閉症や情緒障害などの発達障害を持ったお子さんの在籍が目立ちます。
これは、発達障害児に対する特別支援教育の改正法の成立などを背景として、こどもの将来を眼替え、なるべく地域の小学校で、可能な限り障害のない子どもと一緒に教育を受けさせたいという思いを保護者が持っていることの表れであると思われます。
増加する通級指導による教育
ほとんどの学習は通常学級で行いながら、個々の障害に応じた指導を通級教室で行うのが通級指導です。通級による指導は平成5年より全国で制度化され、平成18年の改正により、情緒障害、学習障害、ADHDなどの発達障害の子どもが新しく対象に含まれるようになりました。令和1年に通級指導を受けている子どもは通級指導が始まった平成5年の11倍となっていおり、特に発達障害を持っている子どもの増加が目立ちます。
特別な教育支援が必要な子ども達は通常学級の中にも!!
小・中学校の通常学級にも、学習障害やADHDなどの発達障害のある子どもが少なからず在籍しています。平成24年に文部科学省が公表した担任教員に対する調査では、知的発達に遅れはないものの学習面・行動面のいずれかまたは両方で著しい困難を示す子どもが小学生の7.7%程度、中学生の4.0%程度見られると推定されています。男女別にみると、小中学生男子の9.3%程度、女子の3.6%程度で、小・中学生全体で6.5%程度、36人学級で、2人程度の発達に問題のある子どもがいるものと思われます。
さいごに
発達障害者に対する法律ができたことで、発達障害に対する理解が少しでも進むことを願っています。
わが子に発達障害があると診断されても、ご両親はなかなか受け入れることができず、周りに対する引け目や遠慮、子どもの将来への不安を抱えながら子育てをしています。
法律だけで劇的に何かが変わるわけではありませんが、法律を理解することで、周りが少しでもご両親の思いに気づいてあげることができれば、今より楽になるかもしれません。
ではまた。 Byばぁばみちこ