【連載ばぁばみちこコラム】第六十回 子どもをめぐる法律(3)-子どもの権利条約とこども基本法―
世界には紛争地域で生活に苦しむ子どもや家庭の事情によって十分な教育を受けることができない子ども達がいます。
日本だけでなく、世界中の子ども達には命が守られ、心身ともに健康に育つ権利があります。この権利は1989年に国連総会で採択され、「子どもの権利条約(Convension on the Rights of the Child)」と呼ばれ、前文および54の条文からなっています。
子どもの権利条約とは? 4つの子どもの権利と4つの原則
日本での正式名称は、「児童の権利に関する条約」です。
ユニセフ(UNICEF国際連合児童基金)は子どもの声を代弁する国連の機関で、子どもの権利条約の条文の草案作りに参加しており、各国にこの条約への加盟を勧めています。
2015年時点で、子どもの権利条約は196の国と地域で締約されており、国連に加盟している国の数を上回り、世界で最も広く受け入れられている人権条約となっています。
この条約は18歳未満の子どもが対象です。子どもに対して、大人と同じように一人の人間としての人権を認めていますが、子どもは心身ともに未熟であり、十分な経済力が備わっていないため、自立できるまでには配慮や保護が必要です。そのため、子どもの権利条約には子どもならではの権利も盛り込まれています。
1989年の第44回国連総会で採択されたこの条約は1990年に発効しました。日本は1990年に署名し、1994年に批准しています。
4つの子どもの権利
健康に誕生し、病気の予防や治療が受けられ、人間らしく生きていくための生活水準が保障される生きる権利、もって生まれた能力を十分に伸ばし、教育を受け成長できる育つ権利、あらゆる暴力、虐待や搾取などから守られる権利、自由に意見を表したりできる参加する権利の4つです。
4つの原則
これらの権利を守るために、根本となる考え方として4つの原則があげられています。
- 医療、教育、生活への支援を受け、命を守られ成長できる権利が保障されます。
すべての子どもは命が守られるとともに、もって生まれた能力を十分に伸ばして成長できることが保障されます。 - 子どもに関することを行う場合には、その子どもにとって最もよい選択は何であるかという子どもの最善の利益を第一に考え実行することが最優先されます。
- 子どもは自分に関係のある事柄について自由に参加し意見を述べることができ、子どもの意見は発達に応じて十分尊重されます。
- 人種や国籍、性、意見、障害、経済状況などのいかなる理由でも差別はされず、すべての権利が保障されます。
子どもの権利条約では、子どもの権利を守る責任は保護者であるとしています。国はそのための環境や法律を整備する義務があると定めていますが、保護者だけで子どもの権利が守ることができない場合には子どもの利益を最優先に考え、国として行動することが求められています。
3つの選択議定書
国連では条約を行っていく中で、「子どもの権利条約」の見直しを行い、その内容を補ったり追加したりするための選択議定書を作成しています。
前文と全54条の本文のほかに、現在までに「3つの選択議定書」が作られました。これらの選択議定書は、子どもの権利条約を締約した国が個別に批准するかどうかについて選択することできます。
選択議定書は 、①子どもの売買や買春及び児童ポルノに関するもの、②武力紛争や戦争への子どもの関与に関するもの、③この2つの議定書にある子どもの権利を締約国が侵害した場合に通報や調査を権利委員会に対して行うための議定書です。
1989年に「子どもの権利条約」が採択されて以降、世界では5歳未満の子どもたちの死亡率は低下し、危険な労働を強いられている子どもの数も減少しましたが、まだ取り残されている子ども達がいます。
ユニセフが国連薬物犯罪事務所の調査として報告しているデータによれば、2012年から2014年の間に、世界106カ国で6万3,251人の人身売買の被害者が確認されており、その多くは女性であると報告されています。また、紛争においては、武装グループは支配地域内で、何千人もの子どもたちを兵士として紛争に駆り出している現状があると報告しています。
子どもの権利条約第23条=障害を有する児童に対する特別な配慮と権利
子どもの権利条約の第23 条には障害を有する児童についての記載があります。「障害のある子どもは、養護について特別の権利を持っており、その児童の状況を見きわめ、子どもと養護している父母などについては障害に基づいた援助を確保し与えることを奨励する」としており、障害を持っている子どもと保護者への援助が明確に歌われています。
「こども基本法」
日本には「児童福祉法」「母子保健法」「教育基本法」「少年法」「児童虐待防止法」「成育基本法」など子どもに関係する個別の法律が各省庁にありますが、「子どもの権利は守られるべきである」という子どもの権利条約に準じた根幹となる法律がありませんでした。
2016年に改正された児童福祉法や「成育基本法」などの一部の法律で、子どもの権利条約に触れていますが、子どもの最善の利益を優先して子どもの問題を解決していくには、憲法や国際法上認められている子どもの権利を保障する「基本法」が必要です。
「こども基本法」の位置づけ=子どもの権利条約を守るための根幹の法律
2022年通常国会最終日の6月15日、こども家庭庁設置法とともにこども基本法が成立し、来年4月1日に施行されることになっています。
日本が子どもの権利条約を批准してから28年が過ぎ、こども基本法は子どもの権利を包括的に定めた初めての国内法です。その基本理念は、各省庁を超えて子どもの最善の利益を優先することや子どもの意見を尊重するなど、子どもの権利条約において原則とされている重要な子どもの権利を守ることにあります。
複雑化している子どもの課題に対応する政策の一本化
こども基本法成立の背景には、わが国における複雑化する子どもの課題があります。少子化で子どもの数は減っていますが、子どもに対する虐待の件数は増加を続け、いじめや不登校、自殺など、子どもにとって生きづらい社会になっているにもかかわらず、子どもに関する多くの政策が空回りしている現状が見えます。
これを解決するために、子どもの人権と子どもの様々な権利を社会全体で守ることを求めたこども基本法の成立とともに、関連各省庁にわたって調整を行うための中心的司令塔が必要です。
また、国から独立して子どもの声を受け止め、子どもの権利を守ることに特化した政策や提言を行う「子どもコミッショナー」という第三者機関が設けられこととなっています。この機関は、自分で権利侵害を訴えることが難しい子どもの代弁者として位置づけられており、子どもの課題に関して調査や監視を行うことが期待されています。
こども家庭庁
こども基本法の中心的司令塔の役割を担うのが「こども家庭庁」です。
こども家庭庁は、来年4月に内閣総理大臣直属の機関として内閣府の外局に設置されることになっています。子ども家庭庁には、こども政策担当の特命担当大臣が置かれ、関係省庁の対応が不十分な場合は「勧告権」によって改善を求めることができるようになります。
また、トップとなるこども家庭庁の長官は関係する行政機関に協力を求める権限を持っています。 こども家庭庁には、「企画立案・総合調整部門」「成育部門」「支援部門」という3つの部門が設けられます。
「企画立案・総合調整部門」
これまで各府省庁が別々に行ってきた子どもに関する政策を一元的に集約し、子ども政策に関連する大枠を作成します。また、デジタル庁などとの連携により、個々の子どもや家庭の状況、支援の内容などに関する情報を集約しデータベースを整備することになっています。
「成育部門」
子どもがどこでも同じように教育や保育を受けられるよう、文部科学省と協議して、幼稚園や保育所、認定こども園の教育や保育内容の基準を設けます。 また、子どもの性被害を防ぐために、子どもに関わる仕事をする人の犯罪歴をチェックする「日本版DBS (Disclosure and Barring Service)の導入や、亡くなった子どもの死亡に関する経緯を検証し、再発防止につなげる「CDR(Child Death Review)」の検討を進める予定です。
「支援部門」
児童虐待やいじめ、ひとり親家庭など、さまざまな困難を抱える子どもや家庭の支援を担います。また、家族の介護や世話などをしているいわゆる「ヤングケアラー」に必要な支援を行うことや施設や里親のもとで育った若者への支援も担当します。
「こども家庭審議会」
こども家庭庁設置法では、内閣府及び厚生労働省から子どもに関係する審議会等の機能を移し、こどもの権利や利益を守るために必要な重要の調査、審議のために、こども家庭庁内にこども家庭審議会を置くことが定められています。
子どもコミッショナー/オンブズパーソン=子どもの意見を聞き権利を守る
(Children's Commissioner/Children’s Ombudsperson)
子どもの権利が守られているかを行政から独立した立場で監視し、調査や勧告する権限を持つ機関を子どもコミッショナー、子どもオンブズマン・オンブズパーソン、子どもの人権機関などといいます。これらの機関は子どもの声の代弁者として、子どもの権利の保護・促進のための提案や勧告をします。
特に、弱い立場にある子どもは人権侵害を受けやすく、虐待を受けている子ども、障害を持っている子ども、少年院や児童養護施設にいる子どもなど不利な立場にいる子どもから話を聞き、その代弁者としての役割が期待されます。
さいごに
各省庁で個別に行われていた子どもの政策がこども家庭庁に一元化され、子どものための政策を進めていくという点は非常に期待が持てます。一方、いじめや虐待、貧困など子どもの人権に関わる課題は多様化しており、特に閉鎖された学校や児童養護施設などでは、外部から本当の実情が把握できない現状があります。
こうした問題に、子どもの生の声を聞くことのできるコミッショナーが独立して機能し、子どもの権利が大切にされ、子ども達の笑顔が増えることを切に願っています。
ではまた。 Byばぁばみちこ