【連載ばぁばみちこコラム】第六十六回 未熟児に起こりやすい病気と未熟児養育医療制度
思いがけなく小さく生まれたわが子を目の前にした時、お母さんは「どうして?」と自責の念で、押しつぶされそうになるかもしれません。
小さく産まれたのはお母さんの責任ではありません。
赤ちゃんを理解するために、未熟児に起こりやすい病気や未熟児の養育医療制度について知っておくことは、赤ちゃんへの応援の第一歩です。
未熟児に起こりやすい病気
未熟児の赤ちゃんは、お母さんの胎内にいる期間が短いほど、呼吸、循環、消化管、中枢神経系などの機能がより未熟で、自立して胎外生活に適応できるまでには様々な手助けが必要です。
新生児呼吸窮迫症候群(RDS:Respiratory Distress Syndrome)
胎児の肺は妊娠23週頃までにガス交換を行う肺胞という膨らみが形成され、妊娠22~24週頃から、肺胞がつぶれるのを防ぐ「肺サーファクタント」という物質の産生が始まります。
新生児呼吸窮迫症候群は肺サーファクタントの産生が十分でない未熟児で起こる病気で、未熟な赤ちゃんほど重症となります(第48回コラムを参照ください)。最も重症な場合には、ほとんどの肺胞に空気が入っておらず、レントゲン写真ですりガラス陰影となり、肺と心臓との境界が分かりません。呼吸障害は出生直後からみられ、適切な治療が行われなければ、生後数時間以内に呼吸障害はさらに著明となります。人工的に作られた人工肺サーファクタントを補う治療が最も有効で、肺の中に直接サーファクタントの投与を行います。
未熟児無呼吸発作
20秒以上続く呼吸停止、または呼吸休止が20秒未満でも徐脈やチアノーゼを伴う場合に無呼吸と定義されています。
呼吸を司る中枢は脳幹にある延髄と言われる部分で、化学受容器(大動脈小体、頚動脈小体)から延髄に送られた血液中の酸素や二酸化炭素の情報によって、延髄は呼吸を調節し、横隔膜と外肋間筋などの筋肉に命令を出し、呼吸運動が行われます。
未熟児ではこれら、脳幹機能が未熟なだけでなく、上気道の閉塞などによって無呼吸を起こしやすく、在胎28週未満の赤ちゃんの大半、32週未満では約半数では無呼吸がみられ、通常在胎37~40週頃には自然に起こらなくなります。
慢性肺疾患(CLD:Chronic lung disease)
慢性肺疾患は「先天性の疾患を除く肺の異常により、酸素投与が必要な呼吸障害の症状が新生児期に始まり日齢28を越えて続くもの」と定義されています。
最も大きな要因は肺の未熟性で、羊膜絨毛膜炎などの胎内での感染、人工換気の圧や酸素による二次的な肺への損傷が原因となります。また、出生後の水分の過剰、感染、動脈管開存などが増悪因子となります。
その結果、肺胞や肺の血管が正常な発達を妨げられ、不完全な修復過程をたどり慢性肺疾患が生じます。厚生労働省研究班が2010年に行った調査では、出生体重1000g未満の未熟児が新生児慢性肺疾患を発症する率は61.2%、1000g以上1500g未満児では14.3%と報告されており、退院後も在宅酸素などの医療的ケアを必要とする場合があります。慢性肺疾患はその要因や胸部X線所見からⅠ~Ⅵの病型に分類されています。
慢性肺疾患Ⅰ型は気管支肺異形成症とも言われています。生直後に呼吸窮迫症候群があり、長期の人工換気や酸素投与によって肺損傷をきたしたものです。
慢性肺疾患Ⅲ型はウイルソンミキティー症候群とも呼ばれ、呼吸窮迫症候群はなく、産まれた直後のレントゲン写真はきれいですが、生後数日でレントゲン写真にレース様の網状の陰影がみられるようになり、呼吸障害は進行します。
主な原因は胎内での感染(羊膜絨毛膜炎)と言われており、細菌性膣炎から胎児を包んでいる卵膜(羊膜、絨毛膜)に細菌感染が広がって起こり、進行すると陣痛や前期破水をきたし、早産となります(第37回コラムを参照ください)。
後天性声門下狭窄症
未熟児の赤ちゃんは、出生直後から呼吸を補助するために気管内挿管が必要になります。特に、体重の少ない1000g未満の小さな赤ちゃんは長期間にわたって呼吸の補助が必要です。その結果、気管内チューブの刺激などによって声門下狭窄症が生じることがあります。
声帯の直下の部分の声門下腔は生理的に喉頭・気管の中で最も狭く、ちょうどその位置が気管内挿管チューブの先端と一致し、気管挿管チューブの圧迫によってその周りにある輪状軟骨の粘膜や粘膜下の組織が壊死に陥り、瘢痕によって狭窄を来すと推測されています。また、長期の挿管による感染なども関与しています。
一旦狭窄症状をおこすと極めて治りにくく、気管チューブを抜去すると呼吸困難が出現する、いわゆる抜去困難症という状態となり、長期の気管切開が必要になることがあります。
未熟児動脈管開存症
胎児期は肺の血管抵抗が高く、右心室から肺動脈に送り出される血液はほとんど肺には流れず、動脈管を通って大動脈に流れています。出生後数日で動脈管は閉じて成人と同じ循環になりますが、未熟児では動脈管がなかなか閉じないことがあり未熟児動脈管開存症と言われています。
動脈管が開いたままでいると、産まれた後、肺動脈の圧が低下するにつれて圧の高い大動脈から肺動脈に血液が流れます。その結果、肺出血や脳室内出血を起こすことがあります。また、下半身への血液の流れが減るため、腸管の血流低下による壊死性腸炎、腎臓への血流低下による急性腎不全のリスクが高くなります。
心臓超音波検査で診断され、インドメタシンという薬が使われますが、心不全が悪化する場合、手術で動脈管をしばる結紮術を行うことがあります。
脳室内出血(IVH:intraventricular hemorrhage)
未熟児は脳血管が非常にもろく、また、脳への血液量を調節する機能が未熟です。
胎児期には、大脳中央の脳室のそばに血管が豊富な上衣下胚層と呼ばれる組織があります。
この組織は未熟児だけに特有の組織で、在胎26週で最も大きくなり、在胎34週ごろに消退するといわれています。上衣下胚層に血液を送っている動脈は虚血になりやすく、静脈は血液が滞りやすいため、簡単に血管が破綻し出血が起こってしまいます。多くは胎外生活の適応過程で、呼吸循環に大きな変化が起こりやすい生後72時間までに発症します。
脳室内出血は超音波検査によって診断され、出血の広がり方で1度から4度に重症度が分類されています。また、出血後に血液の塊が髄液が流れる狭い部位を閉塞したり、クモ膜での髄液の吸収がうまくいかないと出血後水頭症を生じ、脳脊髄液を排出するために、脳室から皮下を通じてチューブを通じてお腹の中に髄液を流す脳室腹腔シャントという外科的処置が必要になることがあります。
脳室周囲白質軟化症(PVL:PeriventricularLeukomalacia)
脳室周囲白質軟化症は在胎32週以下の早産児の脳障害として最も多く、脳性麻痺の大きな原因となっています(第50回コラムを参照ください)。
未熟児では脳の表面からの動脈の発達に比べ、脳室側の動脈の発達が悪く、脳室周囲に血液の流れが悪い部分が存在しています。脳室周囲白質軟化症はこの部位に生じますが、この部位には大脳皮質の運動野から脊髄の中を通って骨格筋につながる神経の束が含まれているため、この部分に影響が及ぶと脳性麻痺を起こします。
脳室周囲白質軟化症による脳性麻痺は、痙性両麻痺(下肢の麻痺が強く上肢は軽い)が最も多く、精神発達の遅れは軽度であることが多く、全く知的障害を認めないこともあります。
壊死性腸炎(NEC:Necrotizing Enterocolitis)
壊死性腸炎は、腸管への血液の流れが妨げられ、仮死、未熟児動脈管開存症、細菌などの感染が加わって、主に回腸、結腸が広い範囲にわたって壊死する病気です。多くは経管栄養がある程度進んだ生後1カ月以内に発症します。原因とは未熟性と関連があり、出生体重が少ない赤ちゃんほど発症率が高く予後が不良です。
初期は、腹部膨満や注入したミルクの胃内残乳が多いなどの症状で始まり、進行すると胆汁性嘔吐や下血、著明な腹部膨満を認め、腸管の穿孔を起こすと、急速に呼吸や循環が悪化します。母乳や乳酸菌などのプロバイオティクスの投与が予防に有用です。いったん発症すると進行が速いため、早期診断、早期治療が重要で、多くの症例で疑いの段階からの治療が必要となります。
進行時期によってⅠ~Ⅲ期に分類され、レントゲン検査では腸管の拡張や腸管の壁内に小さなガス像がみられます。消化管穿孔などⅢ期になると外科的手術が必要になります。
未熟児網膜症
「網膜」は目の内側にある薄い膜で、カメラで言えば写真を映すフィルムです。この網膜に酸素などを供給する血管は妊娠16週頃に発生し36週頃に完成します。
未熟児では、この血管が完成の途中で生まれるため、体外での酸素などのさまざまな要因によって、血管が異常な増殖をすることがあります。これが未熟児網膜症で、増殖した血管によって薄い網膜が引っ張られ、網膜剥離が起こると、視力の低下を引き起こします。
未熟児網膜症は早く生まれるほど頻度が高く、出生時体重1,500g未満での赤ちゃんでは約60%、在胎週数28週未満では100%近くなるといわれています。
未熟児網膜症は、進行のスピードによってⅠ型とⅡ型に分けることができ、Ⅰ型は比較的ゆっくり進行し、自然治癒する場合もありますが、血管の増殖が増悪する場合は治療が必要となります。
Ⅱ型は進行スピードが速く失明する危険性があるため、診断がついたらすぐに治療が必要です。
治療はレーザーを当てて網膜血管の異常増殖を抑える治療で、光凝固術と言われています。また、最近では血管新生阻害剤を眼内に注射する治療も行われています。
未熟児貧血
未熟児貧血には、生後1〜2か月以内に発症する「早期未熟児貧血」と生後4か月頃から発症する「晩期未熟児貧血」があります。
未熟児は、生下時の赤血球の貯蔵が少ない状態で産まれます。また、赤血球をふやす作用を持つエリスロポエチンの産生が充分ではないため早期未熟児貧血が発症します。
一方、晩期未熟児貧血は生後4か月ごろに発症する貧血で、鉄の貯蔵量が充分でないために起こります。未熟児では、診断治療のために採血が頻回で、体重あたりの1回の採血量が多いことも要因となっています。
治療としてはエリスロポエチンという血液を作るホルモンの注射と鉄剤の内服を行います。
未熟児代謝性骨疾患
赤ちゃんの骨を作るカルシウムやリンは妊娠の後期に蓄積されるため、早産で生まれた赤ちゃんはこれらの成分が不足しがちです。これを「未熟児骨減少症」と呼んでいます。高度になると、「未熟児くる病」を発症し、レントゲン写真での異常や骨折を起こすことがあります。
予防が大切で、母乳にカルシウムやリンの粉末を添加したり(母乳強化パウダー)、早産児用のミルクを使用したりします。また、ビタミンDの欠乏が疑われる場合は、活性型ビタミンD製剤を使用します。
未熟児養育医療制度とは?=未熟児のための医療費の助成制度
未熟児養育医療制度は病院や診療所で治療や療育が必要な未熟児に対して、必要な医療費の一部を助成する制度で、ご両親の申請が必要です。
新生児集中治療室で、高度かつ長期にわたる治療が必要な赤ちゃんは多額の医療費がかかります。未熟児養育医療制度はご両親が負担する医療費の一部を助成する制度です。
未熟児養育医療制度の対象となる児と対象期間
対象となる赤ちゃんは母子保健法第6条で定義されている未熟児で、出生体重が2,000g以下、または、運動などの一般状態、体温。呼吸・循環・消化管などの機能が正常児と同程度に成熟していない乳児と定められています。
対象となる期間は満1歳の誕生日の前々日まで、入退院の回数にかかわらず全期間が養育医療制度の対象となります。
未熟児養育医療制度を利用できるまでの流れ
未熟児養育医療制度を利用するには、ご両親が記入する養育医療給付申請書と医師が記入する養育医療意見書以外に、世帯調書、源泉徴収票のコピー、住民税の課税証明書、赤ちゃん本人の健康保険証など、たくさんの書類が必要です。
申請から結果が分かるまでに時間を要しますので、早めに申請の手続きをするようにして下さいね。提出期限が決まっており、それを過ぎた場合は、提出前に受けた治療費の助成を受けることができないことがあります。また、退院してからの申請は原則できません。
未熟児養育医療制度は平成25年4月1日より、各市町村へ権限が移行していますので、お住いの区役所厚生部福祉課で手続きを行って下さい。
書類審査が終わると、結果の連絡と医療券が送られてきますので、治療を受ける指定医療機関に提出してください。
公費負担額は収入により異なります。また、各自治体の「乳幼児医療費助成制度」と併用することで自己負担額が少なくなる可能性があります。
さいごに
私が新生児医療に携わり始めた頃。
NICUに入院していた保育器の中の小さな未熟児の赤ちゃんが、私の指を握り返してくれました。
その瞬間「ああ、生きている」と強く感じました。
未熟児の赤ちゃんは、お母さんのお腹の中に居たかった足りない月日を、外の世界で懸命に生きています。
子ども達が生きていくこれからの世界が幸せであるように願っています。
ではまた。Byばぁばみちこ