【連載ばぁばみちこコラム】第六十九回 小さく生まれた赤ちゃんの子育てー未熟児訪問指導ー 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 小さく生まれた赤ちゃんは、生まれた時の体重が少ないほど発育発達がゆっくりです。また、様々な病気や発達の遅れがある場合には医療的ケアや療育が必要になります。
 退院後の育児の中で日々感じる疑問や不安に対して、相談に乗ってくれる保健師さんなど地域の身近な支援スタッフはお母さんにとって力強い味方です。

 

未熟児訪問指導とは?

 母子保健法第6条では、体や各臓器の機能が未熟なまま生まれ、生まれた時に正常児と同じ機能を持っていない新生児を「未熟児」としています。

 WHO(世界保健機関)は生まれた時の体重が2500g未満の赤ちゃんを未熟児と呼んでいましたが、出生体重は少なくても体の機能は未熟でないこともあるため、現在は「低出生体重児」という呼び方に変わりました。

 赤ちゃんの出生体重が1000g未満は超低出生体重児、1500g未満は極低出生体重児と呼んでいます。低出生体重児が全て未熟児ではありませんが、ほぼ同じような意味で用いられています。

 2500g未満の赤ちゃんを対象とした未熟児訪問指導は昭和40年に公布された母子保健法の第19条第1項に定められており、同じ法律の第11条に定められている新生児訪問指導(第65回コラムを参照ください)と同じ趣旨で行われています。法律では、市町村長はその地域内の未熟児について、養育上必要である場合には、医師、保健師、助産師などが保護者を訪問して必要な指導を行うとされており、未熟児に起こりやすい病気の予防や発育発達の相談などを行っています。

 未熟児の訪問指導は、医療機関からの退院の連絡や家族からの申し出によって始まります。特に超低出生体重児などでは、退院前に両親の希望を聞きながら、地域の保健師と医療機関のスタッフがご両親を交えて今後必要な支援についての話し合いが行われます。

 

低出生体重児が生まれる要因

 低出生体重児が生まれる要因は様々で、子宮頸管無力症、絨毛膜羊膜炎、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離、前置胎盤などの妊娠合併症によって母体と胎児の状況から早産にならざるをえないことがあります。また、胎児側の要因として、多胎では早産になる傾向があります。

 

低出生体重児の出生数

 低出生体重児の赤ちゃんは毎年どのくらい産まれているのでしょうか?

 日本の1年間の出生数は平成28年以降100万人を下回り、令和元年は865239人で、昭和50年の出生数1901440人の半数以下となり、急速に少子化が進んでいます。

 低出生体重児の中で、より未熟性の強い超・極低出生体重児の出生数の推移をみると、極低出生体重児は昭和50年6321人、令和元年6467人とほぼ横ばいですが、超低出生体重児は昭和50年1040人、令和元年2464人と約2.4倍となっていますが、ともに、出生数の減少に伴って、平成17~18年頃を境に超・極低出生体重児の出生数そのものは緩やかに減少傾向になっています。

 

 

 また、1年間に生まれる子どもの中で、超・極低出生体重児が産まれる割合の推移では、超低出生体重児は昭和50年の0.05%から令和元年には0.30%と約6倍、極低出生体重児では0.33%から0.75%と約2倍と増えていますが、平成17年頃からはその割合もほぼ横ばいとなっています。

 

未熟児訪問指導は増加している!!!

 母子保健の主なる統計(母子保健事業団令和5年刊行)の資料によれば、2.5kg未満の低出生体重児全体の出生数は平成17年以降ほぼ横ばいで、平成25年頃からは減少しています

 一方、2.5kg未満の低出生体重児を対象にしている未熟児訪問指導の割合は平成7年以降増加しており、平成24年は実人数58,901件で、低出生体重児の60.4%に家庭訪問が行われています。その後、訪問指導の割合は横ばいですが、半数以上のお母さんが未熟児訪問指導を受けており、極低出生体重児や超低出生体重児に対する訪問率はもっと高いと思われます。

 

未熟児訪問指導に求められるもの(1)=出生早期からNICUと連携した継続した支援

1)お母さんの心の中にある早産で生まれた子どもへの思いを受け止める

 赤ちゃんを小さく生んだことへの申し訳ないという思いは、母親の心からは消えない思いです。母親の思いを表出できる場や時間を家族や保健師などと持つことが望まれます。

 お母さんがバースレビューで,自分の出産体験を語ることは自分の気持ちを整理し、出産体験の意味を振り返り自分のものとすることによって、自己肯定感と育てる力につながります。

2)子どもの状態や将来への不安に寄り添う

 NICU入院中は。子どもの成長発達への不確かさといった先の見えない漠然とした不安ですが、退院後は後遺症など、「子どもの成長への焦り」と言った具体的な不安が現れてきます。特に、在宅医療や療育が必要な赤ちゃんでは、子どもの発育発達の支援だけでなく、お母さんの心に寄り添ったより細やかな訪問指導が求められます。

3)福祉サービスの利用に関する情報提供の支援

 子どもの発達を促すために利用できる福祉サービスや事業について紹介し、手続きに必要な適切な窓口につなぐなど、コディネートの機能をもつことも期待されます。

 NICU入院中の合併症によって発育発達に遅れを生じる可能性がある超低出生体重児などでは、退院後なるべく早く保健師が支援できるよう、医療機関の協力を得て、入院中から家族にかかわることが求められます。また、退院後を見据え地域の小児科医等の関係者と情報を共有し、顔の見える関係を作っておくことも必要な支援です。

4)子ども虐待予防の視点を持って支援を行う

 低出生体重児とそのお母さんに支援を行っていく上で「子ども虐待予防」は欠かせない視点です。育児に対する負担感が大きいほど、お母さんは赤ちゃんに肯定的な気持ちを持ちにくくなってしまいます。虐待の背景の一つに低出生体重児があげられており、親が虐待に至る前に、「あの人に相談してみよう」と、SOSを出せる支援者が周りにいることが大切です。

 

未熟児訪問指導に求められるもの(2)=母親の育児ストレスの要因を知る

 未熟児訪問指導では、お母さんをとりまく家族の状況を評価し、どのような養育上の問題があり、どのような育児不安やストレスを感じ、どのような支援を望んでいるのかを明らかにする必要があります。

 

 

 お母さんが育児不安を感じる要因で最も大きいのは、障害や医療的ケア、発育の遅れなどの赤ちゃん側の要因で、育児に手がかかり、夜泣きなどがみられるなど赤ちゃん育てにくさから育児に困難さを感じます。

 お母さん側の要因として、抑うつ・罪悪感、若年妊娠やお母さんの病気など育児が困難な状況(特定妊婦(第64回コラムを参照ください)などがあげられます。また、同居家族との関係や経済的問題など複数の原因が重なり合っていることがあります。

 

未熟児訪問指導に必要な家族アセスメント=家族の育児力の評価

 新しい赤ちゃんが家族の中に加わるということは、喜びとともに、家族全員に何らかの影響をあたえ、それぞれの関係性が変化し新しい役割が加わることになります。両親は夫と妻の役割に加えて、父親と母親の役割を果たすことになりますし、すでに子どもがいる場合、それぞれ兄や姉としての役割が必要になってきます。

 赤ちゃんが何らかの障害を抱えて、育児に多くの時間を割かれる場合、家族だけでは十分に子どもを育てることが難しく、家族のバランスに大きな変化が生じます。

 家族アセスメントは赤ちゃんが育っていく家族の状況を把握するために行うもので、家族としての育児力を判断し、家族だけでは十分でない点について支援を行っていくために必要です。

家族の主なアセスメント項目

 最も大切なのは、お母さんの精神的、身体的な健康で、赤ちゃんの誕生をどのように受けとめ、子どもとの愛着を作っていける親子関係を築けているかです。また、実際に赤ちゃんへの世話がきちんと行われているか、育児や家事のなどによるお母さんの心身の負担とサポートが行き届いているかを知ることも必要です。

 

 

 入院中にかかわった保健婦さんなどが引き続き関わることが大切で、退院後なるべく早期に家庭訪問を行うことが大切です。また、子どもの発達や家族の生活に変化があれば適時家庭訪問を行うことによって親の抱えている問題やそれを親がどのようにとらえているか判断できます。

 

さいごに

 どんなに小さく生まれてきた赤ちゃんでも、その生命力は計り知れないものがあります。成長のペースは子どもによって違い、慢性肺疾患や未熟児網膜症など大きくなっても経過を見る必要がある病気を持っていたり、障害のために発達が遅れたりする赤ちゃんもあります。

 あなたの赤ちゃんに、どの様な福祉サービスを受けることができるかを知っておくことも大切です、そんな時、地域の保健師さんは強い味方です。

 

ではまた。 Byばぁばみちこ