【連載ばぁばみちこコラム】第七十五回 乳幼児健康診査 -1歳6か月児健診-
1歳6か月児健康診査は母子保健法に定められており、「満1歳6か月を超え満2歳に達しない幼児」が対象で、市町村が保健センターなどで集団健診として行っています。
1歳6か月は乳児期を過ぎ、運動・知的・行動面において、基本的な能力が育っている時期です。この時期の健診の目的は、身体発育とともに、歩行を初めとする運動発達や言葉などの知的発達が順調であるかの診察が主になってきます。
1歳6か月児健診での身体的発育
身長、体重、頭囲の3つの計測値を男女別の成長曲線に記入し、変化を確認します。
身長・体重・頭囲が成長曲線に沿って増えていて、3~97パーセンタイルの範囲内にあれば問題がないと言えます。急激な変化や、この範囲を超える場合には、養育環境や問題となる病気がないかの確認が必要となります。身長と体重のバランスは母子手帳に載っている身長体重曲線から肥満度を判定します。
なお、早産で生まれた赤ちゃんは、実際に生まれた日からではなく、出産予定日から数えた修正月齢で、発育曲線に記入し基準内であれば問題はありません
1歳6か月児健診での運動発達=粗大運動と手指の微細運動の確認
1歳6か月児健診で確認すべき運動発達は2つあります。一つは上手に歩くことができるか、もう一つはおもちゃなどを手指で目的にあわせて上手に扱うことができるかという点です。
粗大運動としての歩行の発達と異常
おむつのみで歩かせて上手に歩くことができるかどうか、歩行を開始していても歩く様子をみて、歩き方に問題がないかを確認します。
歩き始めの頃はバランスをとるために手を肩よりも上に上げて歩きます(ハイガード)が、上手に歩けるようになると手が次第に下がってきます(ミドルガード、ローガード)。
歩くことができない場合、筋緊張や神経学的異常などを伴っていれば、精神運動発達遅滞、脳性麻痺、神経筋疾患などが疑われます。
歩き始めが遅れる赤ちゃんの中にシャフリングベビーと呼ばれる赤ちゃんがいます(第74回コラムを参照ください)。シャフリングベビーは通常のハイハイをせず、お座り姿勢での移動をします。その後、つかまり立ち、伝い歩き、一人歩きへと進み通常2歳ぐらいまでには歩き出します。
歩き方の異常として、左右の足の長さに差がある場合に短い方の脚が墜落するような歩き方(墜下性歩行)が見られます。また、つま先立ちの歩き方 (尖足歩行) が続く場合には、脳性麻痺の子どもや発達障害のために足底の感覚過敏がある子どもなどで見られることがあります。
生理的O脚
O脚とは、両足をそろえて立ったときに、両膝の間が開いた状態のことで、赤ちゃんは2歳頃まではO脚であるのが普通(生理的O脚)で、歩いた時にやや揺れるような歩き方(動揺歩行)がみられます。その後、2歳から6歳にかけて、X脚(立ったときに左右のくるぶしの間が開いた状態)気味になり、7~8歳の頃にほぼまっすぐになります。
2歳を過ぎても、両足をそろえて立ったときに、両膝の間が大人の指が3~4本入るくらい開いている場合は、O脚の程度が強く、くる病やブラウント病など病気が原因のこともあり、整形外科を受診が必要です。
ブラウント病は、膝の内側の骨の成長に障害が現れる病気で、くる病はビタミンDの欠乏やビタミンDの合成障害リンの不足などが原因で起こります。
手指の微細運動
微細運動とは持つ、にぎると言った手指のこまかい動きのことで、赤ちゃんがおもちゃで遊んだり、スプーンなどを使って、物を口に運んだりする時に必要な運動です。
1歳6か月児健診では、色のついた立方体の積み木(1辺3cm)を積むことができるかどうかで判定します。1歳6か月児では90%の子どもが、2つ積み木を積むことができます。積み木を積む操作には、指先の微細な運動とともに両手の協調、手と目の協調運動、積み木を積むという知的能力が必要です。
積み木を積まないで投げたり、かじったりして2個の積み木が積めない、積む気がないなどの場合には発達の遅れの可能性がありますので、経過を見ていく必要があります。
赤ちゃんの手づかみ食べとスプーンの持ち方の発達
離乳食が始まり、赤ちゃんが食べ物に興味を持つようになると、生後9か月頃から、手で食べ物をつかんで食べる「手づかみ食べ」をするようになります。これは目の前の食べ物を目で確かめて手でつかみ、口入れるという目・手・口を使った協調運動で、赤ちゃんの「自分でやりたい」という好奇心を育て、運動機能や感覚機能などの発達に欠かせません。
初めの頃は、上手に口入れることが難しくテーブルの周りを汚してしまいますが、赤ちゃんがスプーンなどを使って食べるようになるためには欠かせない第一歩です。
離乳食が進むと1歳頃からスプーンなどを持ちたがるようになります。
母子手帳の2歳児の記録欄には、「スプーンを使って自分で食べますか?」というチェック項目があり、この頃がスプーンを使えるようになる一つの目安ですが、大人のように上手にスプーンを使えるようになるのは3歳頃といわれています。スプーンの練習を始める時期は、1歳~1歳6か月頃の離乳食後期がひとつの目安です。
子どものスプーンの持ち方は、最初は上からわしづかみにする「上手持ち」から始まります。その後手首をひねる動作ができるようになると、スプーンを下側から握る「下手持ち」ができるようになり、さらに親指と人差し指の付け根を支点にして、親指・人差し指・中指の3つの指でスプーンの柄をつまんで持つ「鉛筆持ち」ができるようになります。上手持ちは生後9か月~1歳頃、下手持ちは1歳~1歳半頃、鉛筆持ちは1歳半~2歳頃にできるようになります。
1歳6か月児健診での精神的発達=知的発達と社会性や行動の発達
1~3歳の幼児期前期になると子どもの自我が芽生え、「イヤイヤ期」に入ります。1歳6か月児は両親をいつでも帰れる安全基地としながら、親から離れて遊ぶことができるようになりますが、子ども同士は一つの場所で遊んでいてもお互いに関わり合ってはいない「並行遊び」です。また、周囲への認知が進み、一人遊びをしていても、周りへの警戒心が強くなっていく時期です。
1歳6か月児では、知的発達と社会性や行動の発達に問題がないかをある程度推測できます。
知的発達
知的発達は言葉の理解とどの程度言葉が話せるかで判断します。
絵カードなどで、「わんわんはどれ?」と聞いて絵の指差しができ、「パパに渡して」など言葉での指示に従うなど言葉を理解することができ、意味のある言葉を3 語以上話せるようであれば、問題ないと言えます。
有意語が2語以下であっても、言語の理解が良く、社会性の発達が良好である(応答の指差しができ、視線がよく合い、言語のみの指示にちゃんと従うことができる)場合は表出性言語遅滞の可能性があり、成長に伴い言葉が伸びていきます。
言語発達の遅れがある場合、聴力障害、精神発達遅滞、コミュニケーションの発達の遅れ(自閉スペクトラム症)、養育環境の問題の可能性を考える必要があります。
社会性・行動の発達
社会性・行動の発達は、話しかけると視線が合い、「こんにちは」と言った時にまねをすることができ、物をはさんで子どもとやり取りが成立(共同注意)すれば問題ないと言えます。
例えば、子どもに好きなおもちゃを渡した時に、おもちゃだけでなく、渡した相手にも視線を向けることができ、「ちょうだい」と言った時に、手渡してくれるなどのやりとりができれば問題ないと言えます。
名前を呼んであいさつをしても視線が合わない、共同注意がなく、やり取りも全く成立しない場合は、コミュニケーションの発達の遅れ(自閉スペクトラム症)が疑われます。
また、この時期の多くの子どもは、好奇心から多動傾向があります。場面に応じた行動の抑制が著しく困難でなければ、成長に伴って改善してきますが、多動的行動特性の他に、知的発達のおくれや自閉スペクトラム症の可能性がないかを考慮する必要があります。
指差し=重要なコミュニケーションの手段
赤ちゃんの指差しは、そばにいる人に興味や思いを伝え共有したいと言うコミュニケーション手段の一つです。指差しが始まるのは、生後8〜10か月頃で、成長に伴って指差しの意味が変わっていきます。
赤ちゃんは指差しの前段階として「物を目で追う」ようになります。「ワンワンがいるよ。」と声をかけると、相手が興味を持っている物に目を向けるようになります。
指差しの発達段階
①自発の指差し 生後11か月ごろから
自分が興味のあるものを見つけたときに指を差すことを、「自発の指差し」といいます。それまでは「相手と自分」という二項関係であったものが、周囲の環境や物に対して関心を持ち、「自分と相手ともう一つ」という三項関係を意識するようになると、この指差しをするようになります。赤ちゃんが指差ししているものの名前を教えてあげると、少しずつ見たものと名前を一致させるようになります。
②要求の指差し 1歳頃から
興味だけでなく、「ほしい」という意思を込めて、指を差すことを、「要求の指差し」といいます。「○○が欲しいのね」と言葉で応じると、理解できる言葉を増やしていくことができます。
③共感の指差し 1歳過ぎから
新しいものを見つけた時に、見てもらいたい、同じような気持ちになってほしいときに行う指差しで、三項関係が発達していることを示します。指を差しながら相手の表情を見て、興味や感情を分かち合おうとするもので、社会性が発達し子どもの世界はより広がりを持っていきます。
④応答の指差し 1歳6ヶ月頃から
1歳6カ月健診では、「○○はどれ?」の問いかけに、指差しで答えることで、大半の子どもが言葉と物の関係を理解しています。
共同注意=コミュニケーションの基盤
相手が何かに注意を向けていることに気づいて、自分もその対象に目を向けることを共同注意と言います。これは相手と意図や注意を共有することで、コミュニケーションの基盤となります。共同注意には指差しが大きな役割を果たします。
始発的共同注意と応答的共同注意
共同注意には、視線や指差しなどで注意を向ける対象を示す行動(始発的共同注意)と、これに従って注意を向ける行動(応答的共同注意)が必要です。
共同注意の5つの発達段階
①前共同注意
お母さんが抱っこや授乳、話しかけなどを通じ、赤ちゃんと情緒的なコミュニケーションをとることが前共同注意で、母子間の情動調律とも呼ばれています。
②対面的共同注意
赤ちゃんは生後2か月頃には外からの刺激に対し笑って反応し、「赤ちゃん-人」、「赤ちゃん-モノ」という1対1の関係(二項関係)がみられるようになります。
対面的共同注意は赤ちゃんに他の物を見せることによって、二項関係から「乳児と人とモノ」の三項関係へ進むための前段階となるものです。
③支持的共同注意
生後6か月頃になると、赤ちゃんは周囲に視線を向けるようになります。お母さんが子どもの視線を追ってモノを共有しながら関わることが支持的共同注意です。
④意図的共同注意
生後9か月頃になると、赤ちゃんはお母さんと一緒にモノを見ながら、お母さんの顔にも視線を向け、自分が気づいているモノを指差しするようになります。それを見て、お母さんが指差しや声で「・・だよね」など、共同注意を引き起こすように行う行動を意図的共同注意と言います。
⑤シンボル共有的共同注意
目の前のモノを介して行われていた共同注意は1歳半頃になると、認知機能が発達し実際にモノがなくても言葉などのシンボルを用いた共同注意が成立するようになります。「リンゴ美味しかったね」という言葉を互いに理解することで、目の前にリンゴがなくても注意を共有できます。
自閉傾向のある子どもと共同注意
共同注意は相手が注意を向けているものに気づき、それを共有するということが必要で、相手の心を感じ取る共感が基盤となります。
自閉傾向のある子どもは、アイコンタクトや頷きなど非言語的なコミュニケーションが苦手であったり、興味や関心を示す対象が限定的であったりするなどの特徴があり、そのため、対象に対する注意を相手と共通する行動である共同注意が困難となってしまうのです。
さいごに
子どもは1歳6か月になると一人で歩き、言葉をしゃべることができるようになります。そして、成長につれて子どもを取り巻く人もお父さんやお母さんなど家族だけでなく、保育園や幼稚園などでお友達と関わる場が増えていきます。子どもは遊びを通じて、様々なことを学び、「社会性」が成長していきます。
また、歩き始めると行動範囲が広がりますので、不慮の事故にはくれぐれも気をつけてくださいね。
ではまた。 Byばぁばみちこ