【連載ばぁばみちこコラム】第七十七回 乳幼児健康診査 -3歳児健診②- 子どものクセ(1) 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 3才を過ぎ、幼稚園などの集団生活が始まると、友達とは違う自分の子どものちょっとしたクセが気になってしまいます。3歳児健診を過ぎると、おねしょ、指しゃぶり、吃音などを心配されて相談されるお母さんが増えてきます。クセの中には、周りの大人が過剰な心配をしない対応が求められることもあります。

 

おねしょ(夜尿症)

 赤ちゃんは、自分の意思で排尿をコントロールすることはできず、ある程度膀胱に尿が溜まると反射でおしっこがでますが、5歳頃までには、排尿をコントロールするしくみが正常にはたらくようになり、好きな時におしっこをし、排尿をしない時に尿がもれることはありません。
 「おねしょ」は夜間、眠っている間におしっこが出ることで、①年齢が5歳以上月1回以上の夜尿3カ月以上継続している場合に「夜尿症」と定義しています。

1.夜尿症の頻度

 日本夜尿症学会によれば、わが国の小中学生の約6.4%に夜尿症が見られています。基本的には成長とともに多くは改善していきますが、中には治療が必要な病気が原因で夜尿症が起こっている可能性もあり、日本夜尿症学会は、2021年に検査や治療についての「夜尿症診療ガイドライン」をまとめて公表しています。
 ある程度の年齢に達しても夜尿症が治らない場合、自尊心の低下など精神的・社会的な影響や生活の質の低下を来すことがありますので治療に取り組むことが推奨されます。

2.夜尿症の原因

 夜尿症には様々な要因がありますが、①眠りから目覚めにくい(人より眠りが深く覚醒閾値が高い)、②夜間に膀胱に尿をためる能力が低い(膀胱容量が減少)、③夜間の多尿(睡眠中の抗利尿ホルモンの分泌のが低下)のバランスがとれていないことが主な原因です。

 

3.夜尿症の分類

 夜間の夜尿以外におしっこに関して問題がないものを単一症候性夜尿症、夜だけでなく昼間急におしっこがしたくなり、おもらし(尿失禁)をしてしまうなどの症状がみられるものを非単一症候性夜尿症と分類しています。


単一症候性夜尿症と治療

 単一症候性夜尿症の子どもは5歳で15%くらいいますが、10歳で5%、12-15歳以上で1-2%と成長につれて自然に減少します。また、男女比は2:1で、男の子に多く、10歳以降は差がなくなります。
 治療は生活指導から開始します。トイレに行く習慣をつける、眠る2~3時間前には飲む量を減らしトイレに必ず行くようにする、睡眠中の寒さや冷えを避けるようにするなどの生活改善を行っていきます。叱ったり、罰を与えたりすることは逆効果です。
 生活指導を数ヶ月継続しても改善がない場合は、アラーム療法デスモプレシンの投与を行います。
 アラーム療法は、排尿を感知するセンサーがついた下着を着けて眠る方法です。
 デスモプレシン治療は抗利尿ホルモンを補う方法です。
 生活指導を始めとする治療を行うことによって、治癒率を2~3倍高めることができ、1年後におねしょが治る割合は何もしない場合の10-15%に比べ50%に上昇します。

 


非単一症候性夜尿症と治療

 日中のおもらしで最もよく認められるのは、切迫性尿失禁で、我慢できない程度に膀胱に尿がたまった強い感覚が突然生じ、強い尿意 (尿意切迫感)にともなって尿が漏れる症状(過活動膀胱)です。
 通常、幼児はお昼のおもらしをしなくなってから、夜間のおねしょをしなくなりますので、夜尿症の治療の前に、昼間のおもらしの治療を優先して行うことが大切です。
 非単一症候性夜尿症の子どもでは慢性機能性便秘神経発達症が併存していることがあります。生活習慣の変化などによって、正しい排便習慣が身についておらず、膀胱の近くの直腸内に便がたまっていると、膀胱を圧迫し、二次的に切迫性尿失禁を誘発してしまいます。


 慢性機能性便秘を合併している場合には、まず便秘に対する治療を行い、その後便秘が良くなってから、定時排尿や二段排尿などの行動療法(ウロセラピー)を開始します。
 また、おもらしがある子どもでは、おしっこが出そう(膀胱充満感)という尿意を感じ、そろそろ排尿すべきであるという判断がうまくできていないことがあり、基礎に発達障害が隠れている可能性があります。神経発達症が疑われる場合には専門機関への紹介が必要です。

 

定時排尿と二段排尿

 尿意を感じる能力が未成熟な子どもでは、我慢しきれないレベルになって、初めて尿意を認識するため尿失禁を起こすと言われており、漏れる前に排尿を促すことを繰り返し、通常の尿意を認識できるようにする(定時排尿)が大切です。
 たとえおしっこがしたい感じがしなくても、直前の排尿から2時間程度たっていたら、1日6回程度を目安にトイレに行っておしっこを出してみるのが定時排尿です。これによって、尿が少し貯まった感じを意識的に感じ取ることができるようになってきます。
 また、残尿を減らすために、排尿がいったん終わったら、20~30秒後に少し体を前かがみにして腹部を圧迫し、残っているおしっこを出す方法が二段排尿です。
 これらの行動療法を行ってみても効果が不十分な場合に膀胱の収縮を抑える抗コリン薬の内服が行われます。

 

指しゃぶり

 

 赤ちゃんにとって指しゃぶりはとても自然な行動です。成長に伴って手を使ういろいろな遊びを覚えていく中で、指しゃぶりは自然にしなくなります。

1.子どもの発達と指しゃぶり

1)胎児期

 胎児は妊娠14週頃より手を口に持っていき、24週頃には指を吸う動きが見られます。胎児の指しゃぶりは母乳を飲むための練習として重要な役割を果たしていると考えられています。

 

2)乳児期

 生後2~4か月頃になると口のそばにきた指や物を無意識に吸い、5か月頃になると目と手の協調運動によって、いろいろの物をしゃぶって形や味などを覚えていきます。

 

3)幼児期前半(1~2歳)
 積み木などの手を使う遊びをするようになると昼間の指しゃぶりは減り、退屈な時や眠い時にのみ見られるようになります。


4)幼児期後半(3歳~就学前まで)

 外に出て友達と遊ぶようになり、5歳を過ぎると指しゃぶりは殆どしなくなります。

 

5)学童期

 6歳になってもまれに頻繁に指しゃぶりがみられる場合、特別な対応をしない限り指しゃぶりは続きます。

 


2.指しゃぶりの弊害―かみ合わせや構音に及ぼす影響

 指しゃぶりは長い間続けるほど歯並びやかみ合わせに影響が出てきます。上顎前突 (上の前歯が前方にでる) 、開咬 (上下の前歯の間に隙間があく) 片側性交叉咬合 (上下の奥歯が横にずれる)などのかみ合わせの異常が起こる可能性があります。
 このようなかみ合わせの異常により口呼吸や構音障害が起りやすくなります。
 前歯が方にでることにより口唇が閉じにくくなり、いつも口を開けて口呼吸しやすくなります。
 また、会話の時に上下の歯の隙間に舌を入れることにより、サ行、タ行、ナ行、ラ行などが舌足らずな発音となることがあります。

3.指しゃぶりの考え方と対応

 指しゃぶりは何歳ぐらいまで放っておいて良いかについては、小児科医、小児歯科医、臨床心理士によって意見が分かれるところもありますが、3歳頃までは、やめさせる必要はないと考えられています
 3歳を過ぎ、すでに習慣化した指しゃぶりでも、保育園、幼稚園で子ども同志の遊びなど社会性が発達するにつれて多くは自然に減少していきます。
 しかし、4歳以降も頻繁な指しゃぶりが持続する場合は、子どもの生活のリズムを整え、外遊びで運動エネルギーを十分に発散、手を使う機会を増やすなどの見直しが必要です。
 子どもが興味を持てるものや集中できる遊び、絵本の読み聞かせやスキンシップをとることも大切です。また、苦み成分が配合されみや指しゃぶりを防ぐマニキュアやテーピングも試してみてもいいかもしれません。

 

爪噛み(咬爪症)

 

 爪を噛む癖は就学前や小学校低学年くらいの子どもによく見られます。

1.子どもが爪を噛む原因

(1)ストレスや不安、環境の変化

 自分の気持ちをうまく伝えられなかったり、ものごとが思い通りにいかなかったりする時などにストレスを感じ、爪を噛むことがあります。また、初めてで慣れない場所や人がいる時など、不安を感じると爪を噛むことで心を落ち着かせようとします。
 爪を噛む行為は、『嫌な感情』を原因となった相手にぶつけられず、自分自身に向けられる場合に引き起こされる行為のひとつで、軽度の『習癖異常』に分類され、爪の周りの皮を剥く、髪の毛を抜くなどの行為も同様です。

 

(2)愛情不足や欲求不満

 親が仕事で忙しい時や、下の子が生まれて、愛情不足を感じている時などに爪を噛むようになることがあります。「噛んじゃダメだよ」と親に注意されると、かまってもらえることが嬉しくて癖が長引くことがあります。

 

(3)単なる癖で習慣になっている

 特に手持ち無沙汰のときに刺激を得る行為として爪を噛むことがあります。

2.爪を噛むことによる弊害

(1)皮膚の化膿や傷を引き起こす

 爪で守られている皮膚が露出して、そこから雑菌が入り感染症を引き起こすリスクがあります。


(2)爪の変形や短縮が生じ、将来コンプレックスもつ可能性があります。

 

(3)歯並びが悪くなり、あごの骨格形成に悪影響(受け口)

 


3.爪噛みに対する対処法

 爪噛みは幼少時の一時的なもので、大人になるとほとんどは自然に治ります。子どもが爪を噛むことで心のバランスを保とうとしている場合には、無理やりやめさせるのはさらにストレスがたまり、爪噛みがよりひどくなる場合もあります。
 家庭や集団生活の中での原因を探り、さりげなく口から手を放してスキンシップを取ったり、ストレスボ―ルなど他の習慣に置き換えたり、別の行動を促したりすることが効果的であると思われます。また、爪のお手入れ(短く切り、爪のおしゃれをする)も有効です。

4.発達障害と爪噛み

 発達障害の子どもは社会に適応しにくく過度なストレスを抱えており、爪を噛んだりする癖がなかなか治りにくく、自傷行為の一つと考えられる場合があります。病名としては「身体集中反復行動症」と言います。
 また、暇があれば自分の爪を噛んでしまうのは発達障害のチック症の一部のこともあります。

 

さいごに

 幼い頃は親が気にしているほど、子どもは自分のクセを気にしていないものです。さまざまなクセは子どもが初めて経験する世界の中で自分を守りながら大きくなっていくのに、必要な防衛手段のひとつである場合もあります。そして、その周りの世界に受け入れられ、安心を感じた時、自然に様々なクセは目立たなくなっていくことも多いと思います。
 お母さんお父さんは、長い目でお子さんの成長を見守ってくださいね。

 

ではまた。 Byばぁばみちこ