【連載ばぁばみちこコラム】第七十九回 乳幼児健康診査 -3歳児健診④- 子どものクセ(3) 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 子どものクセの中には、チックや自傷行為など集団生活の中で目立つものがあり、ご両親の心配だけでなく、子ども自身も自分で止めることができないためにつらい思いをすることがあります。緊張状態や不安を和らげ、子どもに寄り添った声かけをするなど周囲の理解が必要です。

 

チック症

 チック症は、まばたきや咳払い、首振りや奇声が繰り返し出てしまうもので、自分の意思では止めることができません。チックが起こる前には、その動作をしたいという強い衝動が生じ、チックを起こすと、その衝動は一時的に落ち着きます。

 チックは10人に1〜2人くらいの子どもに一時的に現れますが、多くの場合は成人するまでには良くなり、なくなると言われています。チックの発症年齢は18歳以下とされますが、411歳で発症することが多く、特に就学前後の7歳頃に最もよく認められます。

チック症の種類

 チックは、咳払いや特定の言葉を繰り返す「音声チック」と、まばたきや肩すくめなどの顔や手足が動く「運動チック」に分けられます。さらに持続時間によって、瞬間的(1秒未満のことが多い)に無意味かつ突然起こる単純チックと、単純チックに比べ動きが少し遅く、意味がある動作や周囲の環境に反応しておこるように見える複雑チックに分類されます。

 運動チックまたは音声チックがみられる持続期間が1年以内の場合を暫定的チック症1年以上みられる場合持続性チック症と呼んでいます。

 チック症の重症度はさまざまですが、運動チックと音声チックの両方が1年以上にわたり続く場合には、トゥレット症とよばれます。トゥレット症は人口1000人あたり38人に認められ、男性のほうが女性より24倍多く見られます。

 

 

チック症の原因

 チックは、親の育て方や本人の性格によって起こるわけではありません。チック症の原因は不明な点も多いのですが、最近の研究では、脳の働きを調整する神経伝達物質の一種であるドーパミンの働きが偏ることが原因と言われています。ストレスや不安を感じることの後にチック症状が出たり、症状が悪化したり、長期化などを引き起こすことがあり、ストレスは一つの誘因と言えます。

チック症への対応

 チック症状は自分の意思では止めることができません。叱られて止められるものではないので、叱責や注意をしないことが最も大切です。また。子どもの緊張や不安を和らげるために子どもに寄り添った声かけをする周囲に理解を求めることも大切です。

 また持続する場合には、早めに小児科や心療内科に相談し、対応について専門家のアドバイスを受けましょう。

 

 

自傷行為

 

 自傷行為とは、自分の体を意図的に傷つけることで、幼児の場合には、爪を噛む、皮膚をむしる、髪を抜くといった行動も広い意味での自傷行為と言えます。最も多いのは壁や床に頭を打ち付ける、自分を叩くなどの行動で、多くは1歳以降の子どもに見られます。

自傷行為の原因

①思いを上手に言葉で伝えられない

 幼児の頭を打ち付けるなどの自傷行為は、意志がはっきりしていて伝えたいのに、「自分の思いを言葉にして分かってもらえない 」ことが最も大きな原因で、成長に伴って自分の気持ちを言葉で伝えることができるようになると自傷行為は次第に減ってきます。

 特に嫌な気持ちになった時や、伝えたい気持ちが強くなった時に、言葉以外で伝える手段として、気持ちの発散の為に頭を打ち付けてしまうなどの自傷行為を起こします。

 

②子ども自身のストレス

 自分が好きなおもちゃを取られたなど、子ども同士の間などで思うようにならないストレスから自傷行為を行うことがあります。

 

③周りの大人から受けるストレス

 家族の間でのもめ事があるなど家の人のストレスを敏感に感じ取って、それが子ども自身のストレスになってしまうことがあります。

 

④大人に振り向いてもらいたい

 頭を打ちつければ周りの人に振り向いてもらえ、関心を示してもらえるために頭を打ち付けることがあります。

 

 

 自傷行為だけでなく、目線が合わない、意思表示をしない、簡単な会話ややり取りが成立しない、癇癪やこだわりが強いなど社会性に問題がある場合は、自閉スペクトラム症が疑われ、療育が必要となります。

 また、自閉スペクトラム症の子どもでは、「感覚過敏」によって光や音などの刺激が大きなストレスとなり、その刺激から逃れるために、自傷行為によって刺激をごまかすとことがあります。また、逆に感覚の刺激を得るための行動として自傷行為を行う場合もあります。

自傷行為への対応

 自傷行為のある子どもと関わる時に大切な注意点は安全を確保すること周りが過剰に反応しないことです。

 自傷行為の最中は、子どもの安全を確保しリラックスできる環境に置くなどした上で、見て見ぬふりをする努力が必要です。子どもは親の過剰な反応を自傷行為の「報酬」と考え、行為がエスカレートする可能性があります。

 自傷行為が終わって気持ちが落ち着いたら、「これが欲しかったのね?」「出来なくてくやしかったんだね?」など、子どもの気持ちを代弁するように接することが大切です。

 

幼児の自慰行為(性器をさわる)

 子どもが自分の性器をさわるきっかけは、自分の体に疑問や不思議な感覚を持つことから始まります。幼児の自慰行為は、思春期以降の自慰行為とは異なり、性欲からくるものではないといわれています。子どもが性器を触っているうちに偶然に気持ちよさや解放感、それに伴って不安な気持ちが落ち着くと感じ、自然な行為として自慰を行うようになります。

乳幼児の保護者が感じる子どもの性に関する心配事の最多は「自慰行為」

 厚生労働省が2021年に実施した「効果的な性教育方法に関する調査研究」事業において、全国の36歳の未就学児を持つ保護者を対象に行った調査では、子どもの性に関する言動・行動で困ったことがあると回答した人のうち、「自慰行為を目撃した後の対応」と回答した人が、35.6%と最も多く、幼児の自慰行為は、実は多くの保護者が悩む子どもの行為なのだということがわかります。

 

 

快感の感じ方の発達段階

 フロイトは産まれて1歳頃までに見られる、指などをおしゃぶりする行為。この快感を「口唇愛」と呼び、それをしきりに追求するこの時期を口唇期と呼んでいます。1~2歳頃の大便を出すことを好む快感を「肛門愛」、そのことに執着する時期を肛門期と呼んでいます

 そして3~5歳に性器を手でいじることが快感となる時期を男根期としています。自慰行為は多くの子どもたちにとって一時期の通過儀礼です。

子どもの自慰行為に対する親の対応で大切なこと

 まずは「いやらしい」などと過剰反応したり、叱ったりしないことが大切です。

 叱ると、子どもは性を恥ずかしいもの、いけないものと感じてしまい、性に関する心配事があっても「親に相談してはいけない」と思ってしまいます。

 緊張したときや自分を安心させたい時に、ひとつの手段として、多かれ少なかれ、子どもは一時的に性器いじりをする時期があることを理解して対処するのが大切です。

そして、きれいに洗った手で優しく触ること、人に見せたり触らせたりしてはいけない自分だけの大切な場所(プライベートゾーン)であり、 必ず一人だけになれる自分の部屋、布団の中で触ることを教えてあげることが必要です。

 成長に伴って夢中になれる新しいことが見つかると、少しずつ自慰行為はなくなっていくことがほとんどです。

 

 

夜驚症(睡眠時驚愕症)・夢遊病(睡眠時遊行症)

 

 子どもの約25%になんらかの睡眠障害があり、夜驚症夢遊病は子どもに多くみられる睡眠障害です。夜驚症や夢遊病は脳の大脳皮質がある程度発達してくる2歳以降に起こり、もっとも多いのは38歳くらいとされていますが、思春期頃までに自然におさまります。

夜驚症の症状

 ぐっすり眠っていた子どもが夜中に突然目を覚まし泣き叫んだり、手足をバタつかせて暴れたりするのが夜驚症のおもな症状です。

 眠りに入って数時間のぐっすり眠っている頃に起こり、1020分程度続きますが、しばらくすると何事もなかったかのように眠り、翌朝に目を覚ましたときにほとんど覚えていないのが特徴です。

 また、夢遊病では眠っているように見える状態で室内を歩き回ったり、ベッドの上で飛び跳ねたりなどの症状が見られます。

夜驚症の原因

 私たちの睡眠状態は、「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」に大きく分けられます。

 ノンレム睡眠は脳の活動が低下した深い眠りで、レム睡眠は脳の活動が比較的活発で覚めの準備に入った状態のことです。

 夜驚症の症状はノンレム睡眠からの覚醒異常、深い眠りから中途半端に目を覚ましてしまうことで起こります。夢遊病も、同様にノンレム睡眠からの覚醒異常で起こるとされており、夜驚症の子どもの約1/3には、夢遊病がみられるとされています。

 

 

親がとるべき対応

 落ち着かせようと思って声をかけたり名前を読んだりしても、反応しないことがほとんどで、無理に目を覚まさせようとしなくてかまいません。

 動きまわったり暴れたりしても無理に止める必要はなく、室内の危ないものを片付け落ち着くのを待ちます。症状が治まって再び眠ったら、静かに朝まで眠らせてあげましょう。

 ほとんどの子どもは成長とともに自然によくなっていき、通常は治療の必要はありませんが、回数が多い場合にはてんかんとの鑑別が必要な場合があります。また、発達障害を持っている子どもは興奮しやすく夜寝つきにくかったり、夜に覚醒したりする子どもが多く、夜驚症が同時にみられることも多いとされています。

 

さいごに

 幼児期の発達には家庭の中だけではなく、保育園や幼稚園などの集団生活での経験が大切です。

 小さな子ども達の間でのおもちゃの取り合いなどの喧嘩や失敗の経験は、社会性を育むうえで大切です。多くの失敗は子どもの成長の芽を育てます。子どもの前の石ころを除きすぎるとつまずく痛さを経験できません。

 そして、転んで起き上がるためには、ママやパパは自分の味方で、「ありのままの自分」が愛されていると感じられることが大切です。

ではまた。 Byばぁばみちこ