【連載ばぁばみちこコラム】第八十回 サーカディアンリズムと子どもの夜更し・朝寝坊
人の睡眠覚醒などの体内リズムは、地球の自転で起こる明暗の影響を受けており、体内リズムの乱れは様々な影響を引き起こします。特に、成長の過程にある幼い子どもでは、夜更しや朝寝坊による体内リズムの乱れは発育だけではなく、心の発達にも影響を及ぼします。
サーカディアンリズム(概日リズム)= 体に組み込まれた24時間の体内リズム
サーカディアンリズム(概日リズム)という言葉をご存じですか?
私たちは通常、朝起きて、昼活動し夜眠るという、地球の自転の周期に合った約24時間のリズムで生活しています。私達の体の中にあるこの約24時間の体内リズムをサーカディアンリズムと呼んでいます。
そして、このサーカディアンリズムは、私たちが生まれながらに持っている体内時計によってコントロールされています
体内時計でコントロールされる体内リズムには、睡眠と覚醒のサイクルだけでなく、ホルモン分泌、血圧や体温調節など私達の生理機能のほとんどが含まれます。
子どもの発育に必要な成長ホルモンは、「寝る子は育つ」ということわざにあるように、生後3〜4カ月頃になると、夜眠って早い時期の深い睡眠の時に、最も多く分泌されると言われており、日中の分泌は少なくなります。
睡眠に関係する体内リズム
眠りのホルモンであるメラトニンは松果体から分泌され、脈拍、体温、血圧を低下させることによって睡眠のリズムを調整します。
松果体は日中に浴びた光の量によってメラトニンの分泌量を決定し、暗くなってからメラトニンを分泌しますが、朝太陽の光を浴びて15時間前後たたないと分泌されません。夕方以降暗くなると分泌量が増え、午前2時頃に分泌量がピークに達します。
メラトニンのもとになるのはセロトニンという神経伝達物質で、必須アミノ酸であるトリプトファンという物資から作られます。セロトニンからメラトニンを作るのに必要な酵素は光を浴びている間はあまり働かず、夕方暗くなることによって活性が高まりメラトニンが増加しますので、夜に光を浴びないことも大切です。
また、トリプトファンは体内で合成されないため食事から摂取する必要があり、規則正しい食事もメラトニンを作るのには欠かせません。
体内時計はどこにあるのか?
体内時計の中枢である親時計は脳深部の視交叉上核という部分にあり、ここからの信号を全身の細胞にある体内時計(子時計)が受け取って、それぞれの役割を果たします。
人の体内時計の周期は24時間周期よりも長いため、毎日リセットしないと、地球の24時間周期との間に少しずつ「ずれ」を生じてしまいます。
このずれを解消し、体内リズムを整えるために最も必要なのは、朝の太陽の光で、光を浴びることによって視交叉上核の親時計がリセットされ、自律神経を介して全身の体内時計へ伝えられ、様々な生体リズムが正確に刻まれます。
サーカディアンリズムの乱れによる影響
サーカディアンリズムが乱れると、睡眠障害をはじめ、血圧、体温、ホルモン分泌、代謝などさまざまな生理機能に影響を与え、体の不調を引き起こす原因になります。
①睡眠障害
*概日リズム睡眠障害
不規則な生活によって体内時計が修正されずにいると、体内時計がうまく働かず、睡眠のリズムがずれたままになってしまいます。規則正しい生活を行うことで修正できますが、頭痛・倦怠感・眠気などの不調をともなうことになります。
*睡眠相後退症候群
午前3時から6時の明け方に入眠することが多くなり、朝起きられず、起きても日中も眠気や頭痛などの不調を伴います。
*睡眠相前進症候群
夕方から眠気に襲われて20時頃に眠り、2時から3時頃の早朝に目覚めてしまうもので、その後は再度眠ることが難しくなります。
加齢にともなうサーカディアンリズム周期の短縮が原因で高齢者に多く見られます。
②肥満、生活習慣病のリスク
睡眠不足によって、食欲を抑制するレプチンというホルモンが減り、食欲を増加させるグレリンというホルモンが増えるため、糖尿病や生活習慣病のリスクが高まります。
③夜間高血圧
内因性カテコラミンは活動を開始する起床時から午前中にかけて分泌されますが、サーカディアンリズムを喪失すると、夜間に血圧が下がらず、むしろ血圧が上昇します。
サーカディアンリズムを正常に整える方法=規則正しい生活習慣
①決まった時間に起床・就寝する
②規則正しい時間に食事をする
③朝日を浴び、夜は光を抑える
光はサーカディアンリズムに大きな影響を与えます。朝日は体内時計を早めますが、夜に蛍光灯などの光を浴びると体内時計が遅れます。デジタル機器からのブルーライトは体内時計を乱すため、寝る1時間前にはスマートフォンやテレビの使用を止めましょう。
④睡眠前の運動と入浴
寝る前の運動・入浴は、よく眠ることにつながります。眠る2~3時間前に入浴すると眠気を促す副交感神経が働きます。
子どもの夜ふかし、朝寝坊
お母さんの暗い子宮の中から胎外に出てきた赤ちゃんは、生後4ヶ月頃に昼と夜の区別ができるようになり、一定の時刻に眠り、夜間は深い眠り(ノンレム睡眠)が増えてきます。この頃には、多くの赤ちゃんは夜に8~10時間ほどまとめて眠れるようになり、起きてミルクを飲まなくなります(第73回コラム 赤ちゃんの睡眠・覚醒リズムの発達をご参照下さい)。
この睡眠リズムができるためには、24時間周期の体内時計が正しく発達することが必要で、幼児期の夜ふかしや朝寝坊などの生活習慣はなるべく避けることが大切です。
小学生の睡眠習慣の変化
共働き家庭が増え、両親の帰宅時間が遅れ、大人達の生活が夜型化していること、テレビやスマホの影響などにより、子どもの睡眠時間にも変化がみられ、夜ふかしや朝寝坊などの生活習慣が身についてしまいます。
NHKが行った1960年から2010年までの10年ごとの国民生活時間調査によると、小学4~6年生の就床・起床時刻は1960年では平日と週末との間に差がありません。
一方、2000年以降の就床時刻は、1960年と比較して平日・週末とも約1時間遅くなっており、2000年以降の起床時刻は、平日では約15分、週末では約40分遅くなっています。
幼児の睡眠習慣の変化
幼児が午後10時以降に就寝する割合を1980~2010年まで10年ごとに調査した結果では、2000年には3歳以下の幼児が10時以降に就寝する割合が50%を越えています。
この調査が契機となり日本保健協会の提言や文部科学省の子どもの生活リズム向上プロジェクトが開始され、 幼児の睡眠に関して関心が集まり、啓発活動が多くなりました。その結果 2010年は1990年並に改善していますが、2010年においても22 時以降に就床する幼児は約30%程度いると推定されます。
子どもの夜ふかし朝寝坊の影響と推奨される睡眠時間
①「成長ホルモン」の分泌に影響
成長ホルモンは就寝後3時間の間に分泌され、特に眠り始めて90分間に迎える深い眠りの時にピークになるとされています。成長ホルモンの分泌には質のよい深い睡眠が必要です。
②集中力・記憶力の低下、イライラなど精神状態が不安定
セロトニンが不足すると神経の働きが低下し、攻撃的な行動が増えます。セロトニンは、朝日を浴びることや朝ごはんを食べるなどの行動によって活発に分泌されます。
③糖尿病や肥満のリスクが高まる
幼少期に睡眠不足の生活を続けていると、将来的に肥満のリスクが高まります。夜ふかしすると脂肪を分解する役割を持つ「成長ホルモン」が十分に分泌されず脂肪として蓄積します。
国立睡眠財団が幼児の推奨睡眠時間を示しており、生後0~3カ月で14~17時間、4~11カ月で12~15時間、1~2歳で11~14時間、3~5歳で10~13時間としています。
家庭の事情などで十分な睡眠時間をとることが難しい場合もあると思われますが、まずは朝早く起き、日中しっかり体を動かして昼寝は控え、夜8時か9時には寝るように一日の生活リズムを少しずつでも整えてみましょう。
さいごに
小さな子どもの生活習慣は、親の影響を受け、親が夜型タイプの生活を送っていれば、子どもも夜型になりやすいと言えます。仕事によっては早寝早起きが難しい場合もあるでしょうが、可能な限り家族で生活のリズムを整えるように意識しましょう。 体内時計のリセットに必要なのは太陽の光です。
朝起きたら、カーテンを開けて部屋の中に朝の光を入れること、夜子どもが眠っている部屋は明るい電気をつけないこと、そして、夜お父さんが帰宅した時にお子さんが眠っていたら、可愛くても起こさないでくださいね。
ではまた。 Byばぁばみちこ