【連載ばぁばみちこコラム】第八十三回 子どもと遊び(1) 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 子どもが目を輝かせて一生懸命遊んでいる姿は本当に可愛らしく、遊びは子どもの生活そのものです。子どもは日々少しずつ新しい能力を身につけ、大人が気付かない新しいことを発見していきます。遊びはこの成長を引き出す力があり、育ちにとって欠かせない存在なのです。

人間にとって遊びとは?

 人はなぜ遊びに喜びを感じるのでしょうか?

 人は遊びによって現実とは違う世界を感じることができます。遊びは人間性の本質と関連があるとされ、古くから遊びについて多くの研究が行われてきました。

 代表的な研究としてオランダの歴史家ヨハン・ホイジンガとフランスの思想家ロジェ・カイヨワによる研究があげられます。

ヨハン・ホイジンガ 「ホモ・ルーデンス」

 ヨハン・ホイジンガ(Johan Huizinga)は、文化の中で遊びがどのような役割を果たしてきたかという研究で知られています。ホイジンガは遊びが単なる余暇活動ではなく、人間の行動や動機の根底に流れる基本的な要素であるとしており、人間が行う様々な文化的活動の中に遊びの要素が見られると述べています。

 ホイジンガの最も有名な著作「ホモ・ルーデンス」は「遊ぶ人」という意味で、原始社会から近代の「遊び」を研究した作品です。人間は本来「遊ぶ動物」であり、遊びは人間の本質的な特徴であるとしています。そして、遊びこそが他の動物と人とを分ける最大の行為であるとし、文化と呼ばれるものはすべて、遊びの中から生まれたとしています。

 

 

 そして、遊びには5つの要素があり、自分の意思で行う、生活に必要ない、ルールを持つ活動が「遊び」であると定義しています。

 

<遊びの要素>

  1. 自発性 遊びは強制ではなく自らの意志で行うもので、楽しいと感じられる要因の一つです。
  2. 制約と規則 遊びは約束や規則に従って行われ、活動にルールがあり、参加する人に安心感や期待感をもたらします。
  3. 非現実性 遊びは日常の現実から一時的に逃れるものとして存在します。
  4. 緊張と解決 遊びはある種の緊張や競争を伴い、勝利などで喜びや達成感をもたらします。
  5. 不確実性 遊びの結果は予測できず、ゲームやスポーツなどでは勝敗の不確実性を指します。

 

ロジェ・カイヨワ 「遊びと人間」

 ロジェ・カイヨワ(Roger Caillois)は遊びや神話などを研究しているフランスの社会学者です。『遊びと人間』は、彼の最も有名な著作であり、遊びの社会学的および文化的側面に焦点を当てており、この本の中で彼は6つの活動を遊びと呼んでおり、全ての遊びに通じる不変である4つの性質をあげています。

 

<遊びの6つの活動>

  1. 自由な活動 自由意思にもとづいておこなわれる。
  2. 隔離された活動 あらかじめ空間と時間が決められている。
  3. 未確定の活動 結果がどうなるか未確定である。
  4. 非生産的活動 ゲーム内での財産の移動を除いてゲーム開始時と何も変わらない。
  5. 規則のある活動 ルールに従って行う。
  6. 虚構の活動 非日常で、どうしてもなければならないものとは考えられていない。

 

 

<すべての遊びに通じる4つの不変の性質>

  1. 競技(Agon)
    個人・団体を問わず、「競争」のかたちをとる遊びで、平等な条件の下での勝負を特徴とします。競争心を刺激し、個人の技能や戦略を最大限に引き出します。ボクシング、サッカーなどのスポーツやボードゲーム(オセロ、すごろく)などの多くの遊びがこれに該当します。
  2. 偶然(Alea)
    結果が完全に偶然に左右
    されるもので、参加者の能力や選択には関係ないものです。賭け、ルーレットなどがこれに当たります。
  3. 模倣(Mimicry)
    参加者がその自分を一時的に忘れ、偽装し別の人間をよそおう遊びで、仮面、物まね、ごっこ遊び、演劇がこれに当たります。
  4. 魅惑(Ilinx)
    イリンクスは「めまい)」という意味で、通常の知覚や意識を一時的に混乱させることに焦点を当てています。メリーゴーランド、ぶらんこ、ジェットコースターなどが含まれます。

 

子どもにとっての遊びとは

 子どもにとって遊びは、「生きること」そのもので、遊びは子どもの「やってみたい」という自発的な気持ちからスタートしますが、成長に伴って、遊びの内容や、遊び方が変化していきます。

 1989年に採択、1990年に発効した子どもの権利条約約31条では「締約国は児童がその年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い、並びに文化的な生活及び芸術に参加する権利を認める。」と子どもの遊びに関する権利が保障されています。

 

<遊びの役割 >

  1. 体力・運動機能の発達
    幼少期、特に3歳までの子どもは、様々な遊びの中で運動刺激によって、動きや力のコントロールなどを学び、基礎体力や運動機能が発達していきます。
  2. 意欲的な心が育つ
    子どもが進んで行い、興味や好奇心を高めることによって意欲的な心が育ちます。
  3. 社会性の発達
    友だちと一緒に遊ぶようになると、その中でコミュニケーションが必要になります。
    また、子どもどうしで衝突をしながら、友達の気持ちを理解し、思い通りにならないことで自己をコントロールすることやルールを守ることなど社会性を身につけていきます。
  4. 認知能力の発達
    遊びの中で、状況を判断したり予測したりするなどの思考力が発達します。
  5. 豊かな創造力を育む
    固定観念を持たない自由に遊びによって、子どもの想像力や独創性創造力が育まれます。

 

 

社会性の発達からみた年齢による遊び方の特徴(パーテンの遊びの6段階)

 子どもの遊び方にはその年齢ごとに特徴があります。アメリカの心理学者であるパーテンは25歳の子どもを対象に遊びを研究し、年齢とともに子どもたちの遊び方に変化があるとしています。3歳頃までは1人遊びや並行遊びが中心ですが、4歳以降には、社会性の発達をあらわす連合遊びや協同遊びなど、より社会的で協力的な遊びへと進化していると指摘しています。

 

  1. 何もしない遊び 0〜1歳
    赤ちゃんが自分で体を動かしたり、何かをぼうっと見たりするなど、遊びの内容や周りに興味を示さず、自分の体に関わる遊びだけをしている段階
  2. 観察遊び 1〜2歳
    他の子どもの遊びに関心をもち始め、他の子どもの遊びを観察するが、参加しない段階
  3. ひとり遊び 1〜3歳
    他の子どもとは関係なく、一人で遊び周りの他の友達に無関心で遊んでいる段階
  4. 並行遊び 2〜4歳
    他の子どもと同じ場所で遊んでいるが、干渉や物の貸し借りなどのやり取りはない段階
  5. 連合遊び 3〜5歳
    他の子どもと一緒に遊び、おもちゃの貸し借りなどのやりとりが多いが、役割分担やルールが明確でなく自分のやりたいことを主張し合う段階
  6. 協同遊び 4〜6歳
    他の子どもと協力し、共通の目標に向けて集団をつくりリーダーがあり、役割の分担がある段階

 

幼児期の「遊び」で育つ心と自発性

自発性とは?

 自発性とよく似た言葉に主体性や自主性があります。自発性とは、自分がやりたいことを自分で選び考えて行動することを言い、やりたいことを自分で選ぶという点が主体性や自主性と違っています。

 やりたいことを自分で選ぶためには、子どもがやる気をもてる「動機づけ」が重要です。「楽しい」「好き」「やってみたい」という、自分の心から湧き上がる「内的動機づけ」は非常に重要です。この内的動機づけは、楽しそう(好奇心)、やってみたい(挑戦)、自分はできる(自己承認)など、幼い頃に自分が自発的に行ってきた遊びの中で育まれた記憶に原点があると思われます。

 

子どもの自発性を育むには

 アメリカの発達心理学者であるエリクソンは、人生を8つの発達段階に分け、各々の発達段階において直面する課題(発達課題)や困難(心理社会的危機)があり、そして各段階で課題を克服することが、個人の健全な発達と成長に重要であると述べています。

 このうち子どもの時期の発達課題については、

 

  1. 第Ⅰ段階の乳児期
    周りの大人からの優しい世話によって、基本的信頼感を持ち、生きていく希望を持つことができることを発達課題としています。
  2. 第Ⅱ段階の幼児期前期
    着替えや食事などの自律性を身につけることよって自分の意思を持つことができることを発達課題としています。
  3. 第Ⅲ段階の幼児期後期
    遊びを通して自発性を発揮し、親から離れて自分の世界を探求することによって、自分の目的を持つことを課題としています。
  4. 第Ⅳ段階の学童期
    自発的な勤勉性で、それにより自分に対する自信ができ上っていきます。

       

       そして、それぞれの段階での課題をこなしていくことが、次の段階への準備や成功につながっていきます。特に、幼児期後期である4~6歳に遊び通じて得られた自発性はとても重要で、これが学童期の自発的な勤勉性と自分に対する自信につながっていくと述べています。

       

      子どもの自発性を育むための親との関係
      1. 自分で考えて行動させ、子どもに委ねる
        子どもが自分で考えたり選択したりする機会を多く設け、親はなるべく口出しをしないよう見守ることが大切です。
      2. 子どもの個性を尊重し子どもの考えを聞く
        親が子どもの個性を尊重し、興味・関心を肯定することも重要です。また、子どもは親に話すことで、自分の考えや感情を整理することができます。
        また、親にとって望ましくない行動であったとしても頭ごなしに否定せず、子どもの気持ちに寄り添って、話を聞くことが大切です。
      3. 指示・命令をしない、親の求める「良い子」を押し付けない
        親の指示や命令で子どもを行動させようとすることは、子どもが自分自身で考えて行動する機会を奪うことになります。子どもの行動の目的や動機づけも「親に怒られないようにするため」になるので、自発性を育む環境としては好ましくありません。
      4. 親が先回りして子どもの失敗の機会を奪わない
        子どもは失敗から、多くを学びます。子どもが自分で取り組むべき行動を親が先回りして対応してしまうことは自発性の育成を妨げる要因になります。

       

      さいごに

       子どもが幼い頃、ズボンのポケットからだんご虫がたくさん出てきました。虫の嫌いな私はびっくりしましたが、本人は大事そうに飼育箱に入れていました。だんご虫ランドを作ってみたかったそうです。私は毎日、子どものズボンを洗濯機に入れるたびにびくびくしていました。それからしばらくして、だんご虫は見なくなりました。違う遊びに移ったようです。

       今は懐かしいだんご虫の思い出です。次回のコラムでは発達段階に合わせた子どもの遊び、子ども同士のけんかなどについて、お話させてください。

      ではまた。 Byばぁばみちこ