【連載ばぁばみちこコラム】第八十五回 子どもと教育 -義務教育と就学前健康診断-
子どもが初めて受ける学校教育が義務教育です。現在子どもを取りまく学校教育にはいじめや不登校など、多くの問題があります。
文部科学省の全国調査によると小中学生の不登校は11年連続で増加しており、2023年度には346,482人(全児童生徒の3.7%)で、初めて30万人を超えました。
不登校の小学生は130,370人、中学生は216,112人で、人数としては中学生の方が多いのですが、前年度からの増加率は小学生24%、中学生11%で小学生での増加が目立っています。
教育に関する法律=教育基本法
教育に関連のある法律には様々なものがあります。「教育を受ける権利」は日本国憲法第26条で保障されています。そして、その教育についての基本を定めているのが教育基本法という法律で、この基本法に基づいて学校教育について定めたものが学校教育法です。
教育基本法とは?
教育基本法は日本の教育に関する基本的な考えや教育制度について定めた法律で、第二次世界大戦後の1947(昭和22)年に制定されました。この後2006(平成18)年に改正され公布・施行され現行法となりました。
基本法1条の教育の目的は、心身ともに健康な国民を育てことであり、内容は学校教育だけでなく、生涯教育、家庭教育、教育行政までふれられています。
基本法第5条では義務教育について、また生活のために必要な習慣を身につけ、自立心を養うため10条では家庭教育の重要性についても述べられています。
学校教育法とは?
教育基本法に基づいて、学校教育制度の基本を定めた法律が学校教育法で、学校教育に関することが具体的に書かれています。
所管官庁は文部科学省で、第二次世界大戦後の1947年(昭和22年)3月31日に教育基本法とともに制定され、6-3-3-4制を基本とする学校体系に改められました。
1961年に高等専門学校、1998年に中等教育学校(中高一貫教育)、2015年に義務教育学校(小中一貫校)が設置されるなど一部今までとは別の体系が認められてきています。
学校教育法第1条で定められている学校は、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校、大学、義務教育学校、中等教育学校、高等専門学校のことで、これらは「一条校」といわれ、学校教育法は一条校で行われる教育について定められたものと言えます。
また、一条校以外に高等専門学校や専修学校についても規定されています。
なお、保育園は児童福祉法の児童福祉施設で学校ではなく学校教育法には当てはまりません。
また、専門学校、フリースクール、インターナショナルスクールなど日本の教育制度に沿っていない学校については学校教育法に含まれていません。
学校教育法は、始めの第1章に総則が述べられ、第2章に義務教育について書かれています。後半の第12章に雑則、第13章に罰則があり、第3章から9章に一条校について各学校に関する内容や教育の在り方はもちろん学校の設置者の基準や、授業料等について述べられています。
学校保健法とその改正=就学時健康診断について書かれている法律
1947(昭和22)年に公布された現行の教育基本法のもとに学校教育法が定められ、それに基づいて1958(昭和33)年に定められたのが学校保健法です。
2009 (平成21)年から「学校保健安全法」という名称に変わり、児童の健康や保健だけでなく学校における安全管理に関する条項が加えられるなど内容も改正されました。
この法律で示す学校は学校教育法に定められたいわゆる一条校で、学校教育が円滑に行われるように児童生徒と職員の保健管理や学校の安全管理を行うことが法律の目的とされています。
子どもと職員の健康診断、感染症の出席停止などの健康管理だけでなく、学校生活で子どもや職員が安心して過ごせるように様々な安全管理について定められています。
小学校入学時には学校保健安全法第11条に定められている就学時健康診断が行なわれています。改正では学校教育で支援や配慮の必要な児童に対しては、「学校保健計画」を策定することや養護教諭を中心して関連教諭や地域の医療関係機関等と連携を行って保健指導、保健管理を行うこととされています。
また、子どもが過ごす場所である教室の照明や換気などの環境、飲料水等の水質や設備などの学校環境衛生基準の法制化が定められました。
義務教育とは?
日本で初めて「義務教育」という言葉が使われるようになったのは1886年の「小学校令」です。小学校令では、「尋常小学校」の義務教育期間は3〜4年とされました。1907年の改正で尋常小学校の年限が6年になり、これが現在まで続く6年制小学校の始まりです。
義務教育については、憲法を始め、教育基本法と学校教育法に規定があります。
憲法で言う義務教育とは?=子どもが教育を受ける権利と親が教育を受けさせる義務
憲法26条には義務教育について書かれています。第1項には子どもは誰でも教育を受ける権利があり、第2項には保護者は子どもに教育を受けさせる義務があると書かれています。これは「子供が教育を受けなければならない義務」ではなく、「親が子供に教育を受けさせる義務」です。
あくまでも子どもは教育を受ける権利を持っているだけなので、その権利を放棄するのは自由です。そのため、子どもの不登校は憲法違反にはなりません。また、この憲法では、義務教育の授業料を無償と示しています。
教育基本法、学校教育法で言う義務教育とは?
教育についての基本を定めた教育基本法では、憲法同様に保護者が普通教育を受けさせる義務を負うとことと教育の目的について触れられていますが、義務教育の期間については規定がありません。義務教育の目的としては、各個人の能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培うことと国家及び社会の形成者として必要な基本的な資質を養うこととしています。
また、国や地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担や相互の協力を負うとしています。
義務教育の期間について学校教育法で、義務教育は小学校・中学校の9年間と定められており、その就学年齢についても決められています。
就学時健康診断
小学校に入学する直前に行なわれる健康診断で、学校保健安全法に基づいて行われています。市町村教育委員会が住民基本台帳に基づいて学齢簿を作り小学校への入学通知を行いますが、その就学事務の一環として、就学前年度の11月30日までに就学時健診が行われます。自治体には健診を実施する義務がありますが、児童には必ずしも受診に義務はないとされています。
就学時健康診断の目的
初めて小学校に入学して学校教育を受ける子どもの心身の状況を把握し、病気や異常の疑いがあれば必要な助言を行います。子どもに問題がある場合には、保護者及び子ども本人と入学後の生活について共通の理解を持つ必要があります。
知的発達や発達障害の疑われる子どもついても、面接時の子どもの様子や簡単な質問などを行い、配慮を行う必要があるかなどの就学支援に結び付けることを目的としています。
就学時健康診断までの養育歴の把握
幼少時からの既往歴,予防接種歴,成育歴などについては母子健康手帳などを参考にして、あらかじめ保護者に記入してもらった上で健康診断を行うことが大切です。また,子どもによっては入学までの乳児検診などで発達の遅れなどが疑われ、入学までに個別の支援計画などに基づいて療育を行っている場合もあります。そのような場合には保護者の了解を得て,保健センターや療育機関から情報を得ることも大切になってきます。
健康診断の検査項目
- 栄養状態
身体計測によって栄養不良や肥満傾向などを見極めます。
- 脊柱及び胸郭の疾病及び異常(四肢の状態を含む)
脊柱や胸郭、運動器の異常を早期に発見、特に側弯症等に注意が必要です。
- 内科的疾病
疾病や異常を発見するとともに就学後も引き続き健康管理が必要かどうか確認します。
- 視力
左右どちらでも1.0未満では眼科受診が勧められます。
- 眼の疾病及び異常の有無
- 聴力
難聴の有無やその程度を検査し,それに応じて早めに対策を講じることが重要です。
- 音声言語
しゃべり方や吃音など話し言葉に問題がないかをみます。
- 皮膚疾患
- 歯及び口腔の疾病及び異常
処置歯や未処置の虫歯が多く、虫歯の前兆がある場合には受診が必要です。
- その他の疾病及び異常(知的障害,発達障害等)
就学時の健康診断のみで知的障害や発達障害の可能性に気づくことは難しく、今までに受けてきた乳幼児健診(1歳半、3歳児健診)の結果など養育歴を参考にすることも必要となります。
就学時の健康診断の事後措置
健康診断が終わると、教育委員会は,就学時健康診断票を作成し適切な事後措置を行います。入学までに治療や検査が必要な場合(視力や聴力、虫歯など)には受診を促します。
また、発達障害などの疑いがある場合には,教育相談や就学支援を担当する部局や保健福祉部局と連携して保護者が教育相談や心理発達、子育て相談を適切に受けることができるように支援につなげます。
健常児であれば小学校は普通学級に入学しますが、心身に障害があり特別な支援が必要な子どもの場合、多くは障害のある児童を対象とした就学相談を受けます。健診後、1月31日までに、学先学校が各家庭に通知されます。市町村立小学校の普通学級や特別支援学級は市町村、特別支援学校に入学する子どもは都道府県の教育委員会が管轄することになります。
健康診断結果の活用
就学時健康診断の健康診断票は市町村の教育委員会から子どもが入学する学校(市町村立の小学校以外に,国立や私立の小学校,特別支援学校)の校長に送られます。受けとった学校は,これを新入学児童の学級の編成,保健管理や保健指導等に活用します。また、支援の必要性が高い,もしくはその可能性がある子どもについては,その結果は学校医などと連携しながら入学後の支援につなげる必要があります。
さいごに
保育園や幼稚園から小学校に上がると、子どもをとりまく環境は大きく変化します。子ども自身や親が小学校入学時にぶつかるさまざまな問題を「小1の壁」と呼ぶことがあります。また、小学校では勉強が始まり、様々な変化は子どもにとってストレスになります。
入学に当たって就学時健康診断で問題があった場合、就学相談が行われますが、不安を抱えて学校教育を迎えるご家族もあります。次回のコラムでは就学相談や子どもが抱える問題についてお話させてください。
ではまた。 Byばぁばみちこ