【連載ばぁばみちこコラム】第八十六回 子どもと教育 -就学相談- 広島市民病院 総合周産期母子医療センター 元センター長 林谷 道子

 就学相談は発育発達の問題や学習面で困難さがあり、個別の支援が必要であると考えられる子どもの入学時に一人ひとりの子どもに合った学びの場を決めるために行う相談のことで、居住地の教育委員会が主催します。子どもが就学までの乳幼児健診などで発達に問題があり、療育などを受けてきた場合には、就学相談を希望されるご両親もおられますが、就学時健康診断で初めて問題点を指摘され、不安を抱えて相談に望まれるご両親もいらっしゃると思います。

 

就学相談とその目的

 就学相談は、一人ひとりの子どもに最も適している教育の場を決めることが目的です。

主に小学校(中学生)の入学前に行われ、子どもにとって、通常学級通級指導教室特別支援学級特別支援学校のどこに通うのが適しているかを相談します。

 通常学級は、いわゆる普通学級のことで、おおむね文部科学省が決めた学習指導要領に沿って学習を進めます。

発達などに問題があっても就学相談を必ず受けなければならないことはありませんが、特別支援学級や特別支援学校への入学を希望する場合は受ける必要があります。

 

特別支援教育

 特別支援教育を受けることができる学びの場には特別支援学校・特別支援学級・通級指導教室があります。近年では、インクルーシブ教育と合理的配慮という観点から、障害による特定の固定した学びの場でなく、一人ひとりの子どもに応じた環境を選ぶことが望ましいとされています。

 特別支援学校・特別支援学級・通級指導教室はそれぞれ特徴があり、就学の対象となる子どもも違います。特別支援学校にはそれぞれの障害に応じ、困難を克服し人として調和のとれた育成を目指す「自立活動」という特別な指導領域が設けられています。

 特別支援学級は、地域の学校の中に通常学級とは別に設けられており、子どもの実態に応じて特別支援学校の学習指導要領を一部参考として教育が行えるようになっています。また、通常級と容易に交流学習が可能です。

 通級による指導は主に自閉症スペクトラムやADHDの子どもを対象に個々の障害に応じた特別な指導を通級教室で受けます。「心理的な安定」「人間関係の形成」「コミニュケーション」などの情緒面の指導において効果が表れています。

 

 

障害のある子どもの教育に対する制度の改正と基本的な考え方

 2006(平成18)年の国連総会で障害者権利条約が採択されて以降、わが国における障害のある子どもと保護者を取り巻く環境はわずかずつですが、変化がみられるようになってきました。

 障害のある子どもは就学年齢に達すると、原則特別支援学校に通うという今までの就学先決定の仕組みを改め、「障害者権利条約」が目標としている「合理的配慮」や「インクルーシブ教育システム」の理念を目指し、誰もがその能力を発揮し共生社会の一員として誇りをもって生きられる社会となることを目指した特別支援教育を進めていく方向で制度の改正がされてきました。

 

 わが国の特別支援教育の在り方については文部科学省や中央教育審議会で議論が進められ、2012(平成24)年に「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」がとりまとめられました。

 子どもの障害や特性、発達の段階等に応じた指導や教育上の合理的配慮を行った上で、障害のあるなしに関わらず可能な限り同じ場で共に学ぶことを目指し、特別支援学級と通常学級との日常的な交流や共同学習、特別支援学校と小中学校との交流が推進されています。また、子どもの発達の程度をみながら柔軟に就学先決定後も双方向での転学等ができること、新たに通級による指導の開始や終了ができること、特別支援学級から通常の学級への学びの場の変更ができることなどを全ての関係者の共通理解とするとしています。

 インクルーシブ教育システム構築に向けては、障害のある子どもの就学先決定の仕組みに関する学校教育法施行令の改正(平成25年)、特別支援学校や小学校等の学習指導要領等の改訂(平成29年~31年)、高等学校等における通級による指導の制度化(平成30年)などの改正が行われてきました。

障害のある子供の教育支援の手引

 

 令和3年6月には特別支援教育の在り方について、文部科学省初等中等教育局特別支援教育課から「障害のある子供の教育支援の手引」が改定され、教育委員会などの関係者が障害のある子どもに必要な教育や就学先を決める際に大切にすべき点など支援の基本的な指針が手引きとしてまとめられました。

 

 この中では、障害者が日々の社会生活で受ける制限は、自身の心身の機能障害のみならず、社会における様々な障壁によって生ずるという考え方、いわゆる「社会モデル」の考え方をとっており、障害者が障害に加え社会的障壁により日常生活又や社会生活に制限を受けることがないように配慮することが大切であるとしています。

 

就学相談から就学先決定までの流れ

 

 多くは小学校入学の1年前(年長)の4月頃から開始されます。そして11月頃には就学先を決定し、1月頃に就学通知を受け取ります。

 就学相談は自治体によってその方法や内容が大きく異なりますので、より詳しく知りたいときは居住地の教育委員会へ問い合わせをしていただけると情報が分かります。

 

①申し込み

 就学相談は就学時健康診断のように通知が来ませんので、保護者が就学相談を申し込む必要があります。申し込みは電話で直接教育委員会へ連絡するか、通っている幼稚園や保育園を通じて教育委員会へ申し込み、面談の日程などを決めます。

 

②面談

 あらかじめ就学支援シートなどがあれば必要事項を記入し、聞きたい情報をまとめておきます。記入することで、子どもの特性や親自身の気持ちが整理されることもあります。

 面談では子どもの普段の様子を伝え、学校生活を送る上で気になる点について相談します。

学区内の通級指導教室や特別支援学級が設置されている学校(自分の地域の学校にない場合もあります)について情報を得ることが大切で、実際にそれらの教室の見学ができるかどうか確認しておきます。特に通級指導教室は設置されていない学校も多くあります。

 

③検査・医師の診断

 必要に応じて医療機関や療育センターで発達検査や知能検査が行われます。検査は、臨床心理士などの専門家が行い、子どもの知能指数や発達状況、得意不得意な部分などを判定します。子どもはその日の調子によっては結果に波があり、普段できていることができなかったりすることもありますので、結果を全てと思わず目安として受け取ることが大切です。

 

④見学・体験

 就学を希望する特別支援学校や特別支援学級の見学を行うことができます。

 

⑤子どもの行動観察・グループ観察

 保護者の希望や了承を経て必要に応じ、就学支援委員会の人が幼稚園や保育園の集団の中での子どもの様子を見ます。グループ観察では、小学校などに集まり、集団の中での行動や指示に従えるかなどの観察を行います。

 

⑥就学支援委員会での審議

 就学指導委員会でどこへ就学することがその子どもにとってよいかを話し合います。

 

⑦所見を踏まえた面談

 総合的な結果が出た後に両親との面談が行われます。就学相談では、通っている幼稚園や地域の学校の先生、療育機関、発達を専門とする心理師や医師などの意見を踏まえて総合的に判断されますが、最終的には子ども本人と保護者の意見が尊重されます。

 

⑧入学通知

 就学が決定した特別支援学校、特別支援級や通級指導教室から1月31日までに通知が送られてきます。保護者の希望に沿わない場合には再度面談が行われます。

 

 

支援学級の大まかな判断基準と普通学級への転学

 支援学級に就学するかどうかの判定は診断名だけでなく、知的発達の程度、コミュニケーション能力、社会性や身辺自立などを総合的に評価し、一人ひとりの教育的ニーズに基づいて行われます。

 就学相談では、通級や支援学級を勧められることはありますが、最終判断はご両親に委ねられます。望んでないのに、強制的に支援学級になることはありません。

①知的障害学級

 知的発達の遅れがあり、他の人との意思疎通に軽度の困難があり、日常生活で一部援助が必要で、社会生活への適応が困難な子どもが対象になります。

一人でトイレ・食事ができるか、言葉や指示の理解、道具の操作、文字・数字の理解の程度などで判断されます。

②自閉症・情緒障害学級

自閉症の基準

 自閉症スペクトラムがあり、他の人との意思疎通及び対人関係が困難な子どもが対象になります。意思の伝達や指示理解の程度、集団・社会の中への参加が可能か、ルールや決まりごとの理解できるかなどで判断されます。

 

情緒障害の基準

 主として心理的な要因による選択性かん黙などがあり、社会生活への適応が困難な子どもで、ルールや決まりごとを理解できるか、などで判断されます。

 

 

 特別支援学級に入ったら通常の学級に移ることができないのかと心配に思われたり、子どもの状況が変わった時に進路先の変更を検討したいというご両親もいらっしゃると思います。支援学級から通常学級への転学、逆に通常学級から支援学級への転学もできます。

 子どもが学ぶ場は、固定したものではなく、子どもの発達の程度や状況などをみながら、柔軟に選択することができます。特別支援学級と通常学級間での転学は、担任や、連絡調整の役割を担う特別支援教育コーディネーターなどに相談すると良いと思います。

 学校は、本人や保護者の意向を十分に聞き、市町村教育委員会などと話し合いながら転学が望ましいかを決定していきます。

 

さいごに

 就学相談で、通級や支援級を勧められると、わが子を否定された気持ちになって、ご両親は想像以上に傷つくことがあります。また、いわゆる、グレーゾーン発達ゆっくりと言われ不安を抱えながら育児をして来たお母さんは、自分の育児が否定されたと感じ孤独感で苦しむかもしれません。

 子どもの就学が通常学級であれ支援学級であれ、子どもが納得して就学することが必要で、本人が望まなければ、「行きたくなかったのに」とネガティブな気持ちになります。就学は子どもにとってもストレスです。それを乗り切るKeyは、選んだ学級ではなく、その中で生まれる先生や友達との人間関係であると思います。そして、もっともっと社会の寛容さが必要です。

 

ではまた。 Byばぁばみちこ