【連載ばぁばみちこコラム】第八十八回 子どもと教育 -小1の壁と学童保育-
小学校の入学によって子どもの生活環境は大きく変わります。ご両親が共に働いている場合、放課後のお子さんの過ごし方が非常に気になりますよね。核家族が多くなり、祖父母の協力を得ることも難しい場合も多く、そんな時の心強い味方が放課後にお子さんを預かってもらえる学童保育です。
小1の壁とは?
小1の壁という言葉をご存じですか?
小学校入学によって子どもの生活リズムや環境が変化し保育園や幼稚園時代と比べ、仕事と子育ての両立が難しくなることを 「小1の壁 」と呼んでいます。 ご両親にとっても子どもにとっても大きな環境の変化となるため、多かれ少なかれどの家庭でも起こり得る問題です。
小1の壁が起こる原因
(1)保育園で預かってもらえる時間と、小学校の登校時間および学童が終了する時間の違い
保育園は通常、朝は午前7時~7時30分に預かり保育を開始しますが、小学校の大半は午前7時30分~8時に登校します。また、保育園では延長保育がありますが、公的な学童保育の多くは18時~18時30分で終わり、18時を過ぎると保護者の迎えが必要です。
この違いによって、親は、朝子どもを置いて出勤したり、働き方や仕事を変える必要性に迫られたりします。また、子どもは親のいない時間を一人で過ごすことが多くなり、危険に巻き込まれる可能性があります。
(2)共働き家庭の小学生を預かる学童保育(放課後児童クラブ)に入れないことがある
地域によっては子どもの数が多く、学童に入れない場合や小学校内に学童が設けられておらず、学校外の施設に通わざる得ない場合もあり、安全面の観点からも不安が残ります。
(3)夏休みなどの長期休暇がある
保育園にはない長期休暇も小1の壁が起こる大きな要因となっています。学童に預ける場合でも、預けることのできる時間が決まっており、また毎日お弁当作りをしなければなりません。
(4)学校行事、宿題のサポートなど学校生活のフォローが増える
小学生では、体操服や給食セットなど持ち物が増えるため、低学年では1人で準備することが難しく、宿題以外にも親のフォローが必要となります。
(5)時短勤務がなくなる
時短勤務の条件が「小学校入学前まで」となっている職場も多く、フルタイム勤務に戻ると、学童保育の迎えに間に合わなくなり、やむを得ず退職や転職を考えざるを得なくなります。
(6)男性の子育てへの参画が少なく男女格差がまだまだ大きい
母親の方が子育てと仕事の両立に課題を多く感じていることが多く、負担はお母さんが多く背負うことになります。
「小1の壁」を経験した家族へのアンケート
2023年2月に、特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクールが小1の壁に関するアンケート調査を行いました。対象は東京都と近隣の三県(埼玉県・千葉県・神奈川県)の小学1~6年生の子どもを持って働いているお母さん1,000名です。
子どもが小学校に入学したことで働き方を見直しましたか?
子どもが小学校に入学した際に過半数(50.7%)のお母さんが「働き方の見直しを検討」し、全体の37.9%が実際に働き方を変え。時短や別の雇用形態など、育児と仕事のバランス、子どもの生活リズムに合わせるための柔軟な働き方に見直しを行っていました。
子どもが小学校に入学したことで子育ての負担が増えましたか?
子どもが小学校に入学したことよって57.3%の母親が「子育ての負担や悩みが増えた」と回答し、負担と感じる内訳は、「子どもの勉強サポート」、「夏休みなどの長期休みのケア」など、保育園時代には経験がなかった悩みが上位にあがりました。家事・子育てに費やす時間が増えたお母さんの中には、ストレスや自分の体調不良など心身の不調を感じるケースも見受けられました。お母さんの84.7%が子育てと仕事の両立は大変であると感じているものの、働く理由は、自己実現やスキルアップのためではなく、「家計のため」という回答が約9割を占めていました。
子育てと仕事の両立に何が必要ですか?
両立には、「配偶者の理解と協力」、「放課後の子どもの居場所」、「職場の理解」が必要という回答が半数を超えました。
子どもの放課後の過ごし方に何を希望しますか?
子どもの放課後の過ごし方に関しては、悩みを感じている保護者が6割を超え、半数以上が「子どもだけで安全に遊べる場」や「友達と一緒に自由に遊べる場」が欲しいと回答しています。
子どもが放課後に学校施設などを利用し、安心安全で多様な体験や学びの機会が持てることが望まれていました。
小1の壁を乗り越えるには
(1)家族での話し合いが最も大切
夫婦のどちらかが出社時間を遅らせるなど働き方の調整ができないか検討・相談するなど、子どもの思いも聞きながら話し合うことが大切です。優先順位を決め、完璧を求め過ぎず、人に『頼ること』 も大事です。家族の中で家事を分担したり、家事をシンプルにしたりしてお母さんの負担を減らすことが必要です。
(2)祖父母や親戚に協力を依頼
(3)地域にある学童(学校併設の学童保育や民間学童保育)を確認する
学童保育の利用希望者が多い地域では、早めの申し込みが重要です。
(4)ファミリー・サポート(国や自治体のサポート)を利用する
ファミリー・サポートは、「依頼会員(子育て支援を受けたい人)」と「提供会員(子育てを手伝いたい人)」が会員となって、地域で子育てを支え合うサービスです。
(5)同じ学校の親同士で連携する
(6)小学校進学をきっかけに子どもの自立を促す機会と考える
親の時間的・精神的負担が増加するなど小1の壁にはデメリットもありますが、子どもに家事を教えるなど、家族の一員としての自覚が芽生えるメリットもあります。
一人で過ごす場合には、安全面に気をつけ、家の鍵が正しく使えるよう、何度も練習を行ない、万が一鍵を失くした場合の対応策も共有しておく方が安心です。また、一人で留守番をする際のルール(火を使わない、知らない人にドアを開けないなど)を決め、宿題や遊びの時間を少しずつ自分で管理できるように教えていくことも必要です。
学童保育と児童館
学童と児童館は、子ども達の成長を支援するための施設ですが、それぞれ違った特徴や目的があります。どちらも子ども達にとって大切な場所で地域の子育て支援に貢献しています。
学童=放課後児童健全育成事業
「学童クラブ」「学童保育」「放課後児童クラブ」など様々な呼び方があり、児童福祉法第6条の3第2項の規定に基づき、保護者が仕事で昼間家庭にいない小学生を授業の終了後等に児童館等を利用して預かり、子どもの安全で健全な育成を図ることを目的としています。
運営は自治体だけでなく民間事業者など様々で、母親が働くことが増え始めた昭和30年代に日本で普及し始めました。
小学校の授業は午後3時から4時ぐらいに終わり共働きなどで家に誰もいない家庭では、授業が終わって子どもが帰宅しても、保護者が帰宅するまでの時間を一人で過ごすことになります。児童が一人きりになる時間を避けるため保護者の仕事が終わる時間まで児童を預かり面倒を見るのが「学童」です。
学童は、学校の放課後だけでなく夏休みなど長期休暇にも通うことができます。
預かってもらえる時間は、平日は授業終了後から夕方の6時という所が多く、長期休暇などは午前8時半から夕方は平日と同様の6時までという所が多いようです。
学童には学習のサポートや、生活指導、遊びの指導などのために放課後児童支援員という資格を持ったスタッフがいます。
運営する団体によってサービスの内容や利用料金は異なります。民間の場合、遅くまで預かってくれるところや夕食を提供してくれるところもあります。学童は、定員も定められており、事前に申し込みを行い登録している小学生のみが利用できます、自治体が運営する場合、定員に達していて申し込んでも利用する事ができずに待機児童となってしまう事があります。
児童館
児童館は、子どもたちの遊びや学びの場として使用される施設で、地域の子どもたちが集まり友達と自由に遊びながら社会性や創造性を育むことができます。また、地域の大人たちが子ども達の成長を支援するための様々なプログラムやイベントを開催しています。
昭和23年に施行された児童福祉法に伴って、児童館は地域の子どもたちに健全な遊びを提供し、健全育成活動を行う場として社会的に知られるようになっていきました。
その後、昭和40年代に日本で児童福祉施設として整備されました。児童館のスタッフは子ども達をサポートし、安全な環境を提供しますが、学童とは異なり指導や教育を行う役割はなく、子ども達が自分の興味や能力を伸ばし、自己成長を促す場として位置づけられています。
児童館には児童厚生員がいて、子どもの遊びや子供同士のつながりを支援してくれます。イベントなどでは有料な場合もありますが、利用料は不要です。
児童館は学校のある平日は、放課後から夕方5時までが開館時間、また、長期休暇の間は午前9時から夕方5時まで遊ぶことができます。子ども達は原則放課後いったん帰宅して、児童館に遊びに来ます。児童館を利用する際には、子どもと保護者の名前、住所、連絡先などを記入した児童館利用登録用紙を提出します。
学童保育=放課後児童クラブ(放課後児童健全育成事業)の実施状況
子ども家庭庁(以前は厚生労働省)では、放課後児童クラブ数や登録児童数、待機児童数などの
状況を毎年調査しています。この調査によれば、令和6年5月1日現在、放課後児童クラブ数は25,635か所で、ここ数年横ばいですが、統計を取り始めた平成27年以降の支援を行う「児童の数」約40人以下を1単位とした支援単位数は増加傾向で、令和6年には38,122単位と過去最多となっています。また、登録児童数は1,519,952 人で、過去最高値を更新しています。また利用できなかった待機児童数は17, 686 人で前年に比べ1,410人増加しています。
学童保育の運営主体と設置場所
放課後児童クラブは、「設置者」と「運営者」で分類できます。設置の点では市区町村などが設置した「公立」か、民間が設置した「民立」かの2つに分けられます。また、運営の点でも公の組織が運営している「公営」と民間が運営している「民営」の2種類に分けられます。
民立民営には、NPO法人、社会福祉法人、学校法人などの法人組織と、法人でない保護者会や地域の運営委員会などの任意団体に分けられます。
学童保育所は1960年代頃から70年代にかけ、保護者の自発的な活動によって生まれた経緯があるため保護者が経営、運営に関与する例が多く、法人化した場合でも役員を保護者などが務める場合も多くあります。一方で、民立民営では、近年延長保育や送迎、夕食の提供といったさまざまなサービスがある児童クラブの運営に乗り出す株式会社が増えています。
令和6年の子ども家庭庁からの報告によれば運営主体では、公立民営のクラブが最も多く約51%で、公立公営が約24%、民立民営が約25%を占めています。設置場所別でみると、学校の空教室や学校敷地内の専用施設が合計約5割で、通いなれた小学校内での設置が半数を占めていました。
学童保育の学年別登録児童数、待機児童数と終了時間
放課後児童クラブの登録児童数は年々増えていますが、子ども家庭庁からの令和6年の報告によれば、小学1年生の登録が最も多く約3割を占めています。低学年(小学1~3年生)の利用は全体の約8割で、幼い子どもが一人で留守番することを不安に思う保護者が多いことが分かります。
令和6年の待機児童数は待機児童17,686人で、4年生が最も多く、約3割を占めています。高学年の登録数は低学年に比し少なく、ニーズに対して支援が足りていないことがうかがわれます。
放課後児童グラブの平日の終了時間は18時半~19時が54.3%と半数以上を占め、18時半を超えて開いている児童クラブが全体の約6割に上っています。夕方の早い時間には迎えにこられない保護者などの要望が多いためと思われます。一方で、帰宅が19時を過ぎる家庭は少なくなく、終了時間が早いことは「小一の壁」の要因の一つです。
放課後児童対策パッケージ2025=こども家庭庁・文部科学省(令和6年12 月)
放課後のこどもの安全・安心な居場所を確保するための放課後児童クラブの整備については、「場の確保」「人材の確保」「適切な利用調整」の観点から、各種補助事業等を通じた集中的な取り組みが行われてきました。
その結果、令和6年5月1日時点において、学童保育の登録数は目標値である約152 万人に近い151.9万人まで増えましたが、待機児童数は同年5月1日時点で1.8 万人と令和5年度に比べて増加が認められています。
待機児童数増の背景としては、働く母親が増えたことや正規雇用が進んだことで放課後児童クラブに対する要望が想定を上回って増大していることが考えられます。
こうした状況を踏まえ、こども家庭庁・文部科学省は令和6~7年度に集中的に取り組むべき内容について「放課後児童対策パッケージ2025」としてとりまとめを行っています。この中では、主に待機児童が多く生じている要因としての3つの課題をあげ、それを踏まえた6つの対応策を重点項目として挙げています。
3つの課題として、小学1年生の待機児童の問題、時期や地域による待機児童の偏り、補助事業の活用のための周知、関係部局間・関係者間の連携をあげています。
これらの課題を踏まえ、こども家庭庁・文部科学省は6つの対応策を進めるとしています。
就学にあたっての保護者の不安が大きい小学校新1年生の待機の解消をまずは重点的に行うとしています。また、待機児童が多い夏季休業期間中の開所支援のあり方や「場の確保」としての民間で新たに参入する学童保育事業所の支援や学校施設の活用を一層促進するとしています。
さいごに
私も娘を学童保育に預けていました。いつもお迎えはギリギリでした。ある日、迎えに行くと熱があったとのことで寝かされていました。支援員の方がそばについていてくれてどんなにか心強かったかと思います。子ども達が放課後に安心できるのは「場所」だけでなく、一緒にそばにいてくれる「人」だと感じました。
働くお母さんが増えている中、子ども達の安心できる居場所と見守る人が増えていくことを願います。
ではまた。 Byばぁばみちこ